4.予想外のプレゼント~レーム学園への入学案内~(2)
「お姉さまばっかりずるいです!!」
私だってレーム学園に行きたいと駄々を捏ねる妹に、両親が顔面蒼白になった。
「止めなさい、エレナ」
エレナに対して珍しく厳しい顔をする父親だが、今まで甘やかされてきた妹には通用しない。
「どうして?お父様もお母様もおかしいわ。ずっと私だけを可愛がってくれたのに、最近はお姉さまを好き勝手させて!前みたいにお姉さまを叱ってください!」
エレナの言葉に父親は絶句し、母親は泣き崩れた。
対してカトリーナは、可笑しくて笑いを我慢できなかった。ふふ、と笑うカトリーナに、エレナは顔を真っ赤にして言う。
「何がおかしいんですか!お姉さまみたいな人に妖精の国なんて似合いません!!」
ゆでダコみたいな顔で喚くエレナに、更に笑いが込み上げて来る。
「だって可笑しいんだもの。貴女、本当に何も知らないのね」
クスクスと笑いが止まらないカトリーナは、何とか自分を落ちつかせて、無知な妹に説明する。
「お父様たちがレーム魔法専門学校―面倒だからレーム学園と呼ばせてもらうわ。そこに私を通わせたいのは、何も私に、魔法の勉強をさせようって訳じゃないのよ」
カトリーナの言葉に、エレナは瞬時に機嫌が直る。
「魔法の勉強じゃない?じゃあ、私が行きたいです。お母様、良いでしょう?」
母にねだるエレナを、カトリーナは鼻で嗤った。
「この人たちが大切な貴女を通わせるはずないじゃない」
嘲笑を浮かべながら、レーム学園の噂を、両親の真意を口にする。
「レーム学園に入学した生徒の半数以上が、卒業までに死に至るのよ。それも、自ら命を絶ってね」
恐ろしい事を何でもないように話すカトリーナを、両親と妹は様々な感情で見つめた。
妹は恐ろしい事実を知った恐怖を、両親は自分たちの思惑を見抜かれた後ろめたさを抱えて。
「そ、それ本当なの?」
エレナが怯えながらも聞く。
「噂なんでしょ?そんな怖い場所あるはずない!」
「それは行ってみないとわからないわ。なにせ、この家には魔法に詳しい人なんて、居ないんだから」
カトリーナが皮肉を込めて答えると、エレナは押し黙った。愚かで情けない家族の顔を見渡して、カトリーナは言う。
「入学するわ、出発はいつ頃なの?」
「あ、あぁ。ほ、本当に入学するのか?」
父親は信じられないというように、カトリーナを見た。
―自分が言い出したくせに。本当に面倒臭い。
「ええ、ここで暮らすよりはマシよ。いつ寝首を掻かれるか分かったものじゃないから」
カトリーナが魔法を行使するようになってから、何人かの使用人が就寝中のカトリーナに襲い掛かる事が度々あった。
その者たちは、勿論始末した。貴族を殺そうとしたのだ。そんな平民がどんな目にあったって、誰も何も言わない。
たとえそれが、貴族である両親の命令で無理矢理させられたのだとしても、命を狙われたカトリーナには関係の無いことだった。
けれども、この家を出て行けば、そんな日々はもう終わり。
「初めてのプレゼントが、こんなに嬉しいものなんて思いもしなかったわ」
これは決して皮肉ではない。
カトリーナは、もうこの人たちに煩わされなくて良いのだと思うと、小躍りしたい気分だった。
心から喜んでいるらしい娘を、両親はこの数日で最も恐ろしく感じた。
死に行くような場所へ送られるというのに、幸せそうに微笑むカトリーナは、両親たちの理解を超えてしまっていた。
「本当に楽しみ。卒業したら何をしようかしら」
カトリーナは何故か、自分が恐ろしい学校内で死に行く未来が、全く浮かばなかった。
―私は生きて学校を出られるわ。確証はないけど、そんな予感がする。
そんな風に考えている間、両親はカトリーナの言葉に戦慄する。
この娘は、本当に生きて戻って来るのかもしれない。
私達は今とんでもない過ちを犯してしまったのかもしれない、と。
そんな両親の不安は、将来的中することになる。
彼らは自分達の手で、自らの死を早めたのだった。
それはまだ、先のお話である。
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