38.初めての友達(2)
「あ、あの、開けて……ください……」
エイミーの声だ。
あまり聞いた事はないが間違いない。
デイジーは今度こそ、本当に顔を顰めた。先程出て行ったエイミーの事を思い出して、怒りが沸いたのだろう。
気にしなくて良いのにと、カトリーナは扉に向かう。
―どうしたのかしら?デイジーを迎えに来たとか?
そう思いながら扉を開けると、目の前には本の山……を抱えたエイミーが立っていた。
扉が開いた音で、前が見えていないエイミーはおそるおそる部屋に入る。
その途中で本が数冊落ちて「あ、あぁ……」と嘆いて動けなくなった妹に「何してるのよ、全くもう……」と姉のデイジーが駆けつけて、エイミーの抱える本の山を半分受け持った。
落ちた本を拾い集めたカトリーナは、何となしにタイトルを見ると『魔法学の基本』『魔法士の歴史』、魔法関連の本ばかりだった。
カトリーナが興味を惹かれる本ばかりで、思わず釘付けになってしまう。
「カトリーナ様、こちらに置いてもよろしいですか?」
デイジーが備え付けの机の方を見て聞いた。もちろん了承し、カトリーナも拾った本を持って机に置く。
「こんなにたくさんの本を持ってきて、一体どうしたの?」
デイジーがエイミーに聞く。姉のデイジーにも、双子の妹の行動の意味がわからないようだ。
「あ、その、さっき、本を燃やされたって聞いて……」
エイミーは吃りながらも、彼女にしては早口で話し出す。
「本を、本を燃やすなんて許せなくて……!そんなの犯罪。そんなことする人なんて死んだ方が良いわ」
「エ、エイミー?」
普段の物静かなエイミーからは想像のつかない言葉に、思わず困惑した。
ラトリエルも驚いてエイミーの方を凝視している。
そんなカトリーナ達に構わず、エイミーは続けた。
「人の物を勝手に壊したり隠したりする人、大嫌いなの。壊れただけなら魔法で直すことも出来るかもしれないわ。隠されても、見つけ出せばいい。でも、でも、燃やされて灰も残ってないなんて、あんまりじゃない……!」
エイミーはかなり怒っていた。
自分の物が燃やされた訳じゃないのに。
カトリーナは、エイミーの怒りが嬉しかった。
同じことをされて憎しみを抱く人が、自分以外にもいるのだ。
「それで、カトリーナ様が、大切にしていた本を燃やされたって聞いて……私、私」
エイミーは本の山に駆け寄ると、一番上の本を持ってきてカトリーナに差し出す。
「私には、こ、こんなことしか出来ないけど、私がもう、あまり読まなくなった本で、よ、よかったら、貰ってください」
エイミーの言葉にカトリーナは思わず「嘘……」と呟いた。
その言葉にエイミーは「あ、ご、ごめんなさい。要らないですよね、こんな古い本……。決して押し付けようって訳じゃ……」と俯きだして、カトリーナは慌てた。
「ちが、違うわ。ものすごく嬉しくて言ったのよ!!」
事実、カトリーナは本当に喜んでいた。
そして、机に置かれた―10冊はある本の山を見て「もしかして、全部くれるの?」と聞いた。
そんな虫のいい話があるはず無いと思いながら。
「貰ってくれると嬉しいです」
エイミーがおどおどしながらも頷くのを見て、一瞬耳を疑ったカトリーナは嬉しくなった。
「本当に嬉しい。大切に読むわ!!」
カトリーナがそう言うとエイミーはホッと安心したように、はにかんだ。
―エイミーが出て行った時、仕方がないと思っていたけど悲しかったから……。まさか、こんな贈り物をしてくれるなんて。
カトリーナはエイミーが手渡した本を見つめた。
タイトルは『聖女メリラン』。
―物語かしら?読むのが楽しみね。
聖女という文字にも惹かれる。
ここ数日、レーム学園のある聖地ミコランダが人を死に追いやるのは「聖女の呪い」のせいだと言う話を何度か耳にした。
王城に着いたときも、エイミーが「聖女の呪い」と言っていたのを思い出す。
実はカトリーナは初日から、その話を詳しくエイミーに聞きたくてうずうずしていたが、エイミーの人見知りを目の当たりにしては、諦めるというのを繰り返してきた。
―今なら答えてくれるかもしれないけど、今日はその時じゃないわね。今まで挨拶をするのが精一杯だった子が、ここまでしてくれたんだもの。
カトリーナは、デイジーに褒められて嬉しそうなエイミーを見つめた。デイジーも、妹がただ失礼な振る舞いをした訳じゃない事がわかって喜んでいる。
カトリーナは貰った本を胸に抱えた。
燃やされた『はじめてのまほう』の事を思うと、今でも悲しいが、いつまでも落ち込んではいられない。
今度こそは、絶対に盗まれたり燃やされたりさせないと、心の中で誓った。
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