表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/124

36.ラトリエルの訪問(3)

「デルルンド嬢の言った事は嘘よって、言って欲しい?」


 カトリーナは、今すぐに自分の口を縫い付けたくなった。こんな可愛げの無い冷たい態度を、ラトリエルには取りたくなかった。


 それでも、今日できたばかりの傷口を刺激するような事を聞くラトリエルが、今は少しだけ憎い。


―あの女の言った通りよ。私はあの不潔なデブを殺すつもりだったわ。……そう言ったら、この人は私を軽蔑するかしら。


 そんな事を思っていると、ラトリエルは意外にもこう言った。




「いや、そんな事は正直どうでも良いんだ。それが嘘でも本当でも」


 ラトリエルは「僕は直接何もされていないけど、デルルンド嬢には嫌悪感しかないから。あの人がどうなったって興味ない」と軽蔑のこもった目をして言った。


 その目は、ここに居ないアザミに向けられているとわかっていても、カトリーナはラトリエルから目を逸らす。


 ラトリエルは美しい顔立ちであるがゆえに、顔を歪めると圧が強くのだ。カトリーナは、その圧に負けた。

 


「ただ……」


 ラトリエルが話す。カトリーナがそっと彼の方を向き直すと、ラトリエルはいつもの気弱そうな儚げな美少年に戻っていた。


「デルルンド嬢がひとしきり騒いだ後も、大食堂が閉まる最後まで、君は来なかったから。何かあったのは君の方じゃないかって思ったんだ」

「それで、様子を見に来てくれたの?」


 カトリーナがそう言うと、ラトリエルは頷く。


「一度、エステル姉妹と君の部屋を尋ねたんだけど、返事がなくて」

「そうだったの?眠っていて気が付かなかったわ」

「うん。その時にコルファー先生に会ってさ。「彼女の事は、今はそっとしておきなさい」って言われて、一旦その場は解散になったんだ」

「デイジー達も来てくれたのよね?明日、大丈夫だってお礼を言わなきゃ」


 カトリーナは、エステル姉妹達と昼食を取った時の事を思い出す。あの時は自分に起こった悲劇を知らなかったから、カトリーナはいつも通りだった。


 デイジーとは初日から打ち解けて、顔を合わせたら話す仲になり、人見知りのエイミーも、挨拶を返すほどには、心を開いてくれたようだった。


 双子たちは、昼間は元気だったカトリーナが急に部屋に閉じ籠ったのを、気にしてくれたらしい。


 カトリーナがその事を嬉しく思っていると、ラトリエルが少し怒ったように言う。

 

「大丈夫って何が?」

「え、どうかしたの?」


 急に不機嫌になったラトリエルに、カトリーナは聞いた。ラトリエルは軽く息を吐くと、少し呆れた口調で話す。


「デルルンド嬢に何かされたんだろう?」

「まぁ、そうね。私にとっては一生許せない事だったわ」

「それは大丈夫とは言わない。泣いてたんだろう?」

「泣いてた?私が?」


 身に覚えのない事を言われて困惑するカトリーナに、ラトリエルは左手を伸ばす。その手はカトリーナの頬に触れ、目尻を親指でなぞる。


 相手によっては不快感を抱く行為だが、カトリーナは嫌じゃなかった。


「目元が赤く腫れてる。冷やした方が良い」


 ラトリエルがそう言うと、目の周りがじんわりと涼しくなるのを感じた。寝起きに感じた乾燥の痛みが楽になっていく。


「うーん。まだ赤いけど、明日には治ると思うよ」


 ラトリエルはそう言って手を離した。

 カトリーナは「自分はいつ泣いたんだろう?」という疑問は残りつつもお礼を言う。


「ありがとう。今のって魔法?」

「そうだよ。幼い頃、泣いてた僕にお母様がかけてくれた魔法なんだ」

「優しいお母様ね」


「羨ましいわ」と続けようとしたが、カトリーナはその言葉を飲み込む。

 カトリーナの母親―トレンス伯爵夫人が自分に優しくするのを想像して鳥肌が立つ。


―有り得ない妄想過ぎて気分が悪いわ。でも、ラトリエルが家族に嫌われてないみたいで良かった。デイジー達と同じで、追放された子では無いのね。


 そう安心した時、通路の角から複数の足音が聞こえる。カトリーナ達が音のする方向に目を向けると、先程話題に上がったエステル姉妹が現れた。


 姉妹はお揃いのネグリジェの上に、お揃いのストールを羽織っていた。


 妹のエイミーは姉の後ろにくっ付くようにして付いて来ており、姉のデイジーはカトリーナ達を見て、一瞬固まった後、申し訳なさそうに言った。


「ごめんなさい。お邪魔だったかしら?」


お読み頂きありがとうございます。

次回も読んで貰えると嬉しいです。


よろしければ評価★★★★★や、

ブックマークをお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ