表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/124

34.ラトリエルの訪問(1)

 カトリーナは夢を見ていた。

 夢の中のカトリーナは、知らない部屋の中でゆったりとした椅子に腰かけて、くつろいでいた。


 その手元には、愛読書の『はじめてのまほう』が開かれている。


―これは……夢だわ。


 カトリーナの意識は夢を見ていながら、現実的だった。自分の記憶と理想が混ざり合った、幻の世界。


 夢だと理解しながらも、カトリーナは開かれた愛読書のページを愛おしげに撫でる。

 開かれているのは、山奥で見たっきりの白紙のページ。


〈今回はしてやられたね〉


 ページに文章が浮かび上がる。


〈まぁ、しかたないよ。君の邪魔をする人は、決して伯爵家の人間だけじゃないんだ〉


―確かに、ここに来るまでに外で悪い人には出会ってこなかった。逆に、魔法書を無償でくれた人に出会ったくらいだもの。


 カトリーナは、ギルドで出会った親切な男の事を思い出す。


―会ってお礼を言いたかったけど、貰った本を燃やされてしまった……。合わせる顔がないわね。


 夢の中のカトリーナは、魔法書に声をかける。


「アザミに復讐したいの。何かいい方法は無いかしら?」


 ページに文章が浮かび上がる。


〈聖女の呪いを利用するんだよ。学園で、大勢の前でアザミを追いつめるんだ〉


 カトリーナは、魔法書の答えに肩を落とす。


「それはとっくに思いついているわよ。もっと具体的な案が欲しいの」


そう返すとまた、文章が浮かび上がる。

けれども、その文字を読むことができなかった。


 夢の中の部屋の扉がノックされている。

 カトリーナの意思に反して、夢の中のカトリーナは魔法書を閉じて扉の方へ向かった―





 カトリーナは目を覚ました。

 窓の外はとっぷりと暗くなっている。真夜中だ。


―あのまま、眠ってしまったのね。


 カトリーナはベッドから身を起こす。

 無意識に布団を頭から被っていたのか、全身がぽかぽかとしていて、じんわりと汗ばんでいた。


―なにか夢を見ていたような気がするけど……覚えてないわ。


 目の周りが乾いたのか、触っただけでも少し痛い。ぼんやりとした意識の中、何もせずにいると―トントントン、と部屋の扉がノックされた。


「どなたかしら?」とカトリーナが、のそのそとベッドから降りる。扉を開けると、ラトリエルが背中を丸めて立っていた。




 ラトリエルは、カトリーナの寝起きの顔を見て「寝てた?」と聞く。

 カトリーナは慌てて、乱れた髪を手櫛でごまかしながらも、取り繕う事はできず「え、えぇ」とほとんど生返事しか返せなかった。


「そっか。夜分にすまない、起こし―」


ラトリエルはそう言いかけて、はたと言葉を止める。

そして、カトリーナの方をじっと見つめたかと思うと、見る見るうちに顔が赤くなる。


「どうかしたの?」


 カトリーナが近づくと、ラトリエルは一瞬、顔を背ける。


「す、すま、ご、ごめん!直ぐに戻るから、いったん部屋に戻って」


と言ってカトリーナの身体を部屋の方に向けさせ、背中を押しやると、そっと扉を閉めて行ってしまった。


―……え?……え?何??


 カトリーナは呆然とした。

 眠気は吹き飛んだが、自分はまだ夢の中で、寝ぼけているんじゃないかと思った。

 

―いや、夢であって欲しいわ。物を燃やされた上に、ラトリエル……好きな人に避けられるって、今日一日で最悪な事が起こり過ぎよ。


 いっそ夢であれ、と願うカトリーナの願いとは裏腹に、どんどん思考は冴えてゆく。

 そして、カトリーナは部屋に備え付けられた鏡の前にふらふらと立ち寄り、絶望する。


 寝起きでぼさぼさの髪に、むくんだ顔。

 腫れぼったい目。

 何よりも目をひいたのは、汗をかいた影響で白シャツに、うっすらと透けた下着……。


 カトリーナは天を仰ぐ。


―終わったわ。私の初恋……。


お読み頂きありがとうございます。

次回も読んで貰えると嬉しいです。


よろしければ評価★★★★★や、

ブックマークをお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ