32.3号室~思っていたより傷ついた~
カトリーナはコルファー先生に連れられ、3号室に移動になった。部屋の間取りは8号室と変わらない。
違う所といえば、ルームメイトが居ない事くらいだ。
少し前までは他の入学希望者が二人、この部屋で過ごしていたらしいが、ここ数日間で立ち去ったため、今日からカトリーナの一人部屋となった。
―アザミが居ないだけで、こんなにも気分が良くなる……はずだけど、今はそんな気分じゃないわ。
カトリーナは、ここに来てから初めて心が沈んでいた。
どんなに水魔法を使いこなせて、相手に魔法を放つことに躊躇いが無かったとしても、燃やされたリボンや魔法書を取り戻すことは出来ない。
―レーム学園の授業で習えないかしら。物を元に戻す魔法とか。……でも、ああいう魔法って、飛んで行った灰とかが必要かも。そしたら、もう打つ手がないわ。
初めて自分で選んだ服、危機的状況で助けてくれた魔法書、そして、ラトリエルが褒めてくれた可愛いブルーグレイのリボン。
カトリーナは、自分で思っている以上に、それらを失ったことに傷ついていた。
コルファー先生は、カトリーナがアザミを水球に閉じ込めた事を、改めて叱ろうと思っていた。
けれども、振り返った時に、カトリーナが余りにも傷ついていたので、それ以上言うのを止めた。
コルファー先生はカトリーナの様子を見て「自分の行いを反省している」と解釈したが、もちろん、カトリーナは反省などしていなかった。
むしろ、どうやってアザミに復讐しようか考えていたぐらいだった。
―アザミの事は、入学してから―レーム学園に着いてからの方が都合が良いわ。追いつめて、自ら死を選ばせてやる。
そんな事を考えているとは、カトリーナは言わなかったし、コルファー先生も知らなかった。幸運なことに、カトリーナはこれ以上、コルファー先生の怒りを買わなくて済んだのである。
アザミへの復讐とは別に、今のカトリーナには早急に解決しなくてはならない問題があった。
―着替えを手に入れないと。
アザミに燃やされたせいで、今着ている洋服以外を無くしてしまったのだ。新しく買おうにも、王城は町からかなり離れたところにある。
どうしたものかと悩んでいると、コルファー先生が声をかけた。
「トレント嬢。貴女が無くした荷物についてですが……ご実家に頼んで、新しく送ってもらうのも手だと思います。手紙を書きますか?」
コルファー先生の言葉に、カトリーナの気分は更に沈む。そんな手紙を出しても、あの家族達はカトリーナの不幸を喜びはしても、絶対に助けてはくれない。
しかし、それでも衣食住の「衣」を確保しないといけなかった。
カトリーナは正直に自分の状況―自分が伯爵家から追い出される形で、ここに来たことを話す。
話を聞いたコルファー先生は、特に驚く様子もなく、それでいて憐れむ様子もなく「なるほど」と一言。
そして「少し待っていなさい」と言って、部屋を出て行った。
カトリーナは、ホッとしてベッドに身を投げる。
―私の話にコルファー先生が同情しなくて良かった。もし気の毒がられたら、あの人の事、完全に嫌いになったかもしれない。
数十年後、大人になったカトリーナは、この時の事を「コルファー先生への怒りは、完全に八つ当たりだった」と語っている。
けれども、それは、まだずっと先の話。
今現在のカトリーナは、アザミに物を燃やされたのは、初日にコルファー先生が部屋を替えてくれなかったせいだ、と暫く恨んだのだった。
お読み頂きありがとうございます。
次回も読んで貰えると嬉しいです。
よろしければ評価★★★★★や、
ブックマークをお願いいたします。




