28.アザミとの攻防~仕方なく先攻はお譲りしますわ~(2)
カトリーナが呆れていることにも気が付かず、アザミは夢中で火の玉を維持している。
けれども、カトリーナは、あまり焦りを感じていなかった。
理由は二つ。
一つ目は、カトリーナの得意魔法―というよりも唯一使える魔法が、水魔法だったからだ。
相手が少しでも近づこうものなら、お得意の水球に閉じ込める魔法でアザミごと閉じ込めてしまえばいい。
そして、二つ目の理由が―
「貴女方!!何をしているのです!!」
突然、部屋の扉が開き、血相を変えてコルファー先生が飛び込んできた。
二つ目の理由は、屈指の名門校の教師達が、敷地内での攻撃性の高い魔法の気配に、気が付かないはず無いという信頼だった。
―よかった。もう少し来るのが遅かったら、先生への信頼が下がるところだったわ。
急な「お偉いさん」の登場にアザミの気が取られて、火の玉は消えてしまった。
「デルルンド嬢!こんな所で火を起こすなんて、何を考えているのですか!!」
コルファー先生がアザミを叱るのと、火の玉に怯えたカトリーナがうっかり唯一使える水魔法で、アザミの真上から大量の水を浴びせたのは同時だった。
それも、氷のように冷たい水を。
突然、頭から冷や水を浴びたアザミは悲鳴を上げて、その場にしゃがみこんだ。
「トレンス嬢。貴女……」
コルファー先生が困惑した声で呼びかけた。
カトリーナは弱弱しい声で謝罪する。
「申しわけございません、コルファー卿。デルルンド嬢が急に火の玉をぶつけてこようとしたものですから。私、なんとか火を消さなきゃと思って……」
「床の水は私が―」片づけます、と続けようとした時に、左手首に痛みが走る。
先程、アザミに突き飛ばされた時にひねった様だ。
「どうかされたのですか?」
コルファー先生が尋ねたので「さっきデルルンド嬢に……」と、これまた弱弱しく手首を庇いながら話す。
「部屋は私が何とかしますから、貴女は教員部屋で手当てして貰いなさい。場所はわかりますね?」
コルファー先生の言葉に頷き、「ご迷惑お掛けします」と頭を下げて、部屋を出た。
そのとき、態と扉は開けたままにしておく。
そのおかげで、アザミを叱るコルファー先生と、それに言い返すアザミの声が通路中に響き渡っていた。
「入学前からなんて問題を起こすのですか!!このまま入学を認めずに、ご実家へ送り返したって良いのですよ!!」
「私は悪くないわ!!!あの女が生意気な態度を取るから、わからせてやろうと思って―」
「それで、火の魔法で脅したのですか!相手に怪我までさせて。一体どんな教育を受けたら、そんな事が出来るのです!!貴女の行いが、ご自分の家の品位を損ねていると、わかっていますか!!」
「だって、だって!私は、わだじはぁ、わるぐないもぉぉん」
最後の方は泣き出したアザミの声が響き渡る。
―いい気味だわ。先に手を出さなくてよかった。手首をひねったのは悔しいけど。
鼻歌でも歌いたい気分だったが、カトリーナは、それを行動に移すような愚か者ではなかった。
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