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27.アザミとの攻防~仕方なく先攻はお譲りしますわ~(1)

 カトリーナはトボトボと、割り当てられた部屋に辿り着く。


 部屋の扉には「8号室」と、取って付けたような不格好な札がかかっていた。もともとこの部屋は、王城で働く人達が使っていた部屋なのだろう。


 後ろにはブタ姫改め、デルルンド伯爵令嬢のアザミがドスドスと付いてきていて、カトリーナの気持ちは一気に沈んだ。


―いや、まだ希望は捨ててはいけないわ。さっきの態度は、説明会の内容で気が動転していただけかもしれないもの。先入観は良くないわ。


 そう自分に言い聞かせながら鍵を開けると、アザミが「邪魔」と一言、カトリーナを押しのけて部屋に入る。巨体に押しのけられて、カトリーナは扉に鼻をぶつけた。


―やっぱり嫌な奴だわ、このブタ女。いや、ブタに失礼ね。


 カトリーナは鼻を摩りながら、心の中でブタに謝った。


「ちょっと、アンタ!」


 アザミが横柄に呼ぶ。彼女がドカリと腰を下した反動で、ベッドが大きな音を立てて軋んだ。


「ぼーっと突っ立ってないで、さっさと荷解きをしなさいよ!!」


 そう言って床に投げ置かれた、一目で高価だとわかる鞄を指差すアザミに、カトリーナは苛立った。


―何で私が、このデブの小間使いをしなくちゃならないのよ。そんなことするくらいなら、乞食にでもなった方がマシだわ!


 アザミの言うことを無視して―ついでに態とアザミの鞄の上をまたいで、反対側のベッドの所まで移動する。


「ちょっと、聞こえないの!?」


「聞こえてるわ」カトリーナが冷たく言い返した。

 そして、自分の旅行鞄を広げながら「さっさと自分の荷解きでもしたら?」と続ける。


 カトリーナの態度にアザミは、わなわなとデカい身体を震わせた。


「キイィー!!何なのその態度!平民のくせに立場が分かってないようね!」


 金切り声を上げる、知性の欠片も感じさせない女の言動を、カトリーナは鼻で嗤った。


「私は平民じゃないわ。トレンス伯爵令嬢よ」


 そう言いながらも最後に、一応ね、と心の中で付け足した。すると、今度はアザミが馬鹿にしたように嗤う。


「伯爵令嬢?そんなみすぼらしい服しか持ってないアンタが、私と同じな訳ないじゃない!しかも、トレンス伯爵なんて聞いたことないわ」


カトリーナが着ているのは、平民の店で買ったワンピースだ。安価な生地で作られているが、小柄なカトリーナでも着られるシックなデザインで、結構気に入っている。動きやすいのも利点だ。


―確かに、本来の令嬢ならお忍びの時にしか着ないかもしれないけれど、こんな所に裾を引きずりそうなドレスで来る神経の方がわからないわ。それに……


 げらげらと笑うアザミに、カトリーナは鳥肌が立つ。口元を隠しもせずに豪快に口を開けて笑うなんて、淑女としては有り得ない。


―なにあの笑い方。あんなの、ろくに教育を受けていない私でも、恥ずかしくてできないわ。


 軽蔑の念を込めて、真っすぐとアザミを見る。


「それは、そうでしょうね。貴女みたいな下品な方、お近づきになりたくないもの。聞いたことなくて当然よ」


 品格は自分の方が上だと確信したカトリーナは、態といつも以上に丁寧な口調で、相手を詰った。


「私もデルルンド家なんて聞いたことないわ」と、嫌悪感を隠さずに付け足すと、


「なんですって!?」


アザミがベッドから立ち上がり、カトリーナの肩を強く押した。


 腕力は向こうの方が強いのか、やせ気味のカトリーナは尻もちをついてしまう。


―これからは身体も鍛えないと。さすがにレーム学園では、毎食ちゃんと食べられるわよね?


 突き飛ばされたにも関わらず、明日からの食事の心配がよぎる中、アザミは顔に青筋を立ててフー、フーと鼻息を荒くした。


「よくも私にそんな口を聞いたわね!立場を分からせてやるわ!!」


 怒りで興奮状態のアザミが、両手を前に出して何やらぶつぶつと言い出した。


―もしかして魔法?ここで打つの?


 カトリーナは唖然とした。

 カトリーナとて、この短い間に何度、この女の息の根を止めてやろうと思ったか、数えきれないほどだった。


 けれども、それをしなかったのは、ここが自分たちの領土でないからであり、お互いに貴族だからだ。


 ホルムクレン公国にどんな決まりがあるのか、カトリーナは知らなかったが、いくら貴族でも、余所様の土地ではお行儀よくしておくに越した事は無い。


 だからこそ、カトリーナは山奥で自分を殺しに来た暗殺者を、蘇生させたのだから。

 とっておきの切り札を犠牲にしてまで。


―嘘でしょ?


 目の前で、火の玉を作り上げているアザミから目を離せなかった。自分以外の人が使う魔法を目の当たりにしたのは、これが初めてだった。


 あの火の玉が当たったら、一生癒えない大火傷を負うだろうことは理解できる。


 けれども、カトリーナには恐怖心よりも、こんな狭い部屋で火を起こしたアザミの短絡さへの呆れの方が強かった。


―この女、品も無ければ知性も無いのね。


お読みいただきありがとうございます。

次回も読んで貰えると嬉しいです。


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