26.最悪なルームメイト~変なあだ名をつけたツケ~
「事前説明をここ、ホルムクレン王城でしたのは、王城にその魔法ゲートがあるのが理由の一つ。そして、今の説明を聞いて入学を辞退する者を、「生きて」お返しする為です」
コルファー先生が神妙な顔もちで話を進める。
「本日から一週間、王城での滞在を許可します。先程の説明の事も踏まえつつ、じっくりと入学を考えてください。もちろん、入学者は歓迎します。入学を決めた者には、名門校にふさわしい知識と技術を、皆さんにお約束いたします」
説明は以上です―とコルファー先生が言ったところで
「ちょっと待ちなさいよ!」
カトリーナの左隣に座っていた令嬢が急に叫ぶ。
隣にいたカトリーナは耳元で大声を出されて、顔をしかめてその令嬢を見た。
この場に似つかわしくない、フリフリのドレスを着たふくよかな令嬢は、唾を飛ばしながらコルファー先生に向かって抗議する。
「どうして死ぬようなリスクを冒してまで、聖地に行かなければいけないのよ!!そんな危ない場所じゃなくて、他の所に学校を建て直せばいいじゃない!!!」
令嬢が飛ばす唾を嫌い、カトリーナは右隣―ラトリエルの方に身を寄せる。
ラトリエルもあの令嬢の振る舞いが嫌なのか、近づいてきたカトリーナに何も言わずに同情的に微笑んだ。
「まぁ、それは一理ありますが……」
コルファー先生が、落ちついて対応する。
「聖地ミコランダについては、全てが解明されたわけではありません。私達教員は、聖地の研究者でもあります。そのため、私達は聖地を離れて学校を運営することができないのです」
「それはそっちの都合じゃない!私には関係ないわ!!」
令嬢、カトリーナは心の中でブタ姫と名付けた―はさらに声を荒げる。ブタ姫の意見には同意する部分もあるが、そんなに嫌なら黙って帰ればいいのにというのが、正直な感想だ。
「貴方、どうせ平民でしょう!?平民は私のために無理をしてでも何とかしなさいよ!!私は聖地になんて行かないわ!―そうだわ、ここ王城で授業をすればいいじゃない」
あまりの言葉に、今まで真剣な表情だったコルファー先生の顔が、とうとう険しくなる。
コルファー先生の他にも、身なりからして平民の子ども達がブタ姫を睨みつけた。ブタ姫はそれを見て、腕を振り回しながら喚く。
「何よ!平民の分際でこの私に楯突く気?アンタ達なんて私がパパに言いつければ、首なんて簡単に刎ねられるんだから!!」
「首を刎ねる」という言葉に、カトリーナは聞き覚えがあった。
―このブタ姫、もしかして馬車が出発する前に先生と揉めていた男の娘かしら?
そう思案していると、コルファー先生はハァと大きなため息をついた。
「全く親子揃って、書面を読んでいないみたいですね。レーム学園では貴族や平民、そして王族といった身分は意味を為しません。ですから……」
先生が少し意地の悪い笑みを浮かべる。
「貴女が伯爵令嬢で、私がコルファー侯爵家の人間でも、ここでは生徒と教師以外の関係はありません」
「侯爵家」と聞いて、ブタ姫は今までの勢いを無くし、黙りこくった。何か言い訳したいようだが、言葉を紡げない様子。
―身分は関係ないって、言ったくせに。先生が身分の差で黙らせているじゃない。
カトリーナはこの状況に呆れたが、ブタ姫がこの場で成敗されたのは気分が良かった。
―が、その良い気分は直ぐに消える事となる。
「では、予定より長くなりましたが、王城で過ごす間の部屋割りをお伝えします。今年は入学希望者が多いので、相部屋となります。まずは―」
気を取り直したコルファー先生が、名前と部屋の号数を読み上げる。
そして―
「カトリーナ・トレンス、アザミ・デルルンド。8号室」
自分の名前を呼ばれて立ち上がると同時に、ブタ姫も一緒に立ちあがった。
―嘘でしょ?嘘だって言って!変なあだ名を付けたの謝るから。
カトリーナが祈るようにブタ姫も見た時、ブタ姫もカトリーナの方を見た。
「あぁ、アンタがカトリーナ?じゃあ、アンタが部屋の鍵貰ってきて。私、気分悪いから」
最悪のルームメイトとの最悪な一週間が幕を開けた。
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