25.ホルムクレン王城~噂の真偽~(3)
「聖地ミコランダは、皆さんの中に芽生えた罪悪感を増幅させ、自らを死に追いやります。この地に相応しくない者を消すかのように―これが、我が校に死者が多い理由です」
「発言よろしいですか?」と少年、いや、体格はもう青年と言っても差し支えない一人が声を発する。
ミルクティー色の長髪を後ろに束ねているその青年は、ただ座っているだけなのに、どこか高貴な威厳を感じさせた。
「自身の罪悪感によって死に至るとの事ですが、それは―例えば入学前に犯した罪や、それに対する罪悪感も、聖地によって裁かれるのですか?」
犯した罪―という言葉に、カトリーナは身体が強張る。
―もしかして、私が過去に行った正当防衛も当てはまるのかしら。
伯爵家に転がした何人もの平民の姿が脳裏をよぎった。
「そうですねぇ・・・」
コルファー先生が、少し思案してから慎重に答える。
「まず、聖地は罪人の罪を暴き、天罰を下すようなことはしません。あくまで、その人の中にある罪悪感を膨らませるだけですから。なので、例え皆さんがここに来る前になにか罪を犯したとしても、その罪を理由に死ぬことはありません」
罪を裁くのは人間が作った法律ですからね、と言ってコルファー先生は続ける。
「ですが、その罪によって生まれた罪悪感を持ったまま入学すると、もしかしたら、その罪悪感が膨らみ、死を持って詫びる事になるかもしれませんね」
コルファー先生は、子ども達を見渡した。まるで、品定めをされている様で、カトリーナの背筋が自然と伸びる。
「聖地ミコランダでの自殺は、天から下された罰ではなく、あくまでも自分が選んだ死なのです」
と締めたコルファー先生に、質問した青年が「なるほど、ありがとうございました」と言う。
カトリーナはこの話の間、自分の行いを振り返っていた。
両親の命令で自分を殺しに来た人たちの最期。
仕返しで顔に消えない傷をつけた侍女達の顔。
自分の事を怯えた目で見る、家族と呼ぶべき人たち。
それらが頭に浮かんでは消えていき、カトリーナが抱いた感情は「無」だった。
―自覚はあったけど、私って性格悪く育ってしまったわね。
カトリーナは自分の行いを、少しも悪かったとは思えなかった。
むしろあの日、初めてエレナや侍女、両親に魔法で歯向かった自分を誇らしく感じていた。
―よかった。少なくとも今までの行いを悔やむような謙虚さは、今の私には無いわ。
少しの罪悪感もなければ、聖地ミコランダとて、手の施しようがない。
「質問は以上ですか?では、次の説明に入ります。レーム学園に向かうために通る魔法ゲートについてです」
まだあるの?とカトリーナは少しげんなりした。
―もう説明はいいわよ。さっさと学校に行きたいわ。
「端的に言います。魔法ゲートは魔力を持たない者、そして、少ない者が使用すると通り抜ける事ができません。転送中に身体が分解されて消滅するからです」
「消滅?」
誰かが思わず言葉を漏らす。
「ええ、消えて無くなるという事です。皆さんは本心はどうであれ、入学したいとここに集まってきました。ここに魔力を持たない者は居ないはずです」
ですが、と言ってコルファー先生の目が鋭くなる。
「ここ近年はありませんが、開校以来、スパイ目的で魔力を持たない者をレーム学園に通わせようとする者が過去に多くいました。悪い事は言いません。もし、自分がそうだという人は、白状はしなくて良いです。入学は諦めてください」
「そして―」と言ってコルファー先生が、こちらに目をやった。
一瞬、カトリーナは自分が見られていると思ったが、先生の視線は右隣―ラトリエルに注がれていた。
「自分の魔力量に自信の無い者も、辞退をお勧めします。魔法専門学校は他にもありますから、レーム学園に拘る必要はありません。我が校は屈指の名門校ですが、死んでは元も子もありませんからね。どうか、冷静な判断をしてください」
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