24.ホルムクレン王城~噂の真偽~(2)
「レーム学園では毎年、生徒そして教員も含む数名が、自ら命を落としています」
コルファー先生がそう断言した瞬間、広間の中は静まりかえった。この場に20人以上も集まっているとは、思えないくらいの静けさだ。
「これには、学校が建立された場所が「聖地」であることが大きく関わっています」
コルファー先生の声だけが響き渡っている。
「「聖地」とは皆さんもご存じのとおり、神秘的な力で浄化された土地の事です。ですが、歴史書や物語に登場する聖地と、これから皆さんが足を踏み入れる聖地は一点だけ違いがあります」
一呼吸置いて、先生は尚も続ける。
「それは清らかな土地であるが故に、人間が長居するのに向いていない点です」
短いおさげの少女が小刻みに震えながら、静かに手を挙げる。身なりからして、おそらく平民だ。
コルファー先生が「質問ですか?どうぞ」と言うと少女は「お話の途中ですみません」と青白くなった顔で言う。
「そ、それって、入学したらみんな死んじゃうんですか?」
少女の質問に、カトリーナは呆れる。
―それを今から先生が説明するんじゃない。わざわざ止めてまで言うこと?
けれども、少女の質問は殆どの生徒が今すぐに知りたい事だった。
「長居出来ないって事はそういう事よね」
「でも、卒業した人もいるって話だったぜ」
「騙されたんじゃないの」
「いやだ、死にたくない。いやだいやだいやだ―」
子ども達の暗い妄想が膨らみ、それは大きな混乱の始まりだった。
ざわざわとした喧騒の中、泣き声も交じり始めた頃、コルファー先生が何やら言葉を発しているのに、カトリーナは気が付いた。
―なにを言っているのかしら?・・・ああ、もう!他が騒がしくて聞こえない!!
もう少しでカトリーナは「うるさい!!」と怒鳴る所だったが、なぜか急に怒気が静まっていくのを感じた。それに比例するかのように、子ども達も落ち着きを取り戻していく。
「はい、はい。皆さん落ちついてくださいね。まだ話は終わっていませんよ」
コルファー先生が手を叩き、穏やかな口調で言う。
―さっき先生が呟いていたのって魔法の呪文?心を静める的な魔法かしら?聞き取れていたら、後で試せたのに!
カトリーナが悔しがる中、コルファー先生の話は続く。
「まず、入学したら全員が死ぬのかという質問ですが、答えは否です。もしそうならば、レーム学園の卒業生であり、勤続8年目の私がここに居るはずがないからです」
にこりと笑うコルファー先生の言葉に、安堵する声があちこちから上がる。
「私を含めた元生徒たちによって、全員が死ぬわけでも、無差別に死に至るわけではないことが、ここ数年で、ようやく断言できるようになりました。そして、自ら命を絶つ人の傾向も明るみになりつつあります」
心して聞いてください、とコルファー先生は続ける。
「傾向としては、罪の意識―自らの罪悪感に苛まれた者のほとんどが、自ら命を絶っています」
例えば―
「誰かに怪我を負わせた。喧嘩をした。もしくは―自分のせいで、誰かが死んでしまった。その事に対する罪悪感が自分の中で膨れ上がり、罪の重さに耐えかねて、自ら死を選ぶに至る―これが、現在考えられている中で、一番の有力説です」
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