23.ホルムクレン王城~噂の真偽~(1)
「ホルムクレン王城に到着ー。みんなー、気を付けて降りてねー」
ゆっくりと馬車が止まると、間延びした声の主が扉を開ける。
声ではわからなかったが、運転手は女性だった。
肩につかない長さに切りそろえられたショートボブの運転手は、引率の青年とおなじローブを羽織っている。
四人は順番に馬車を降りて行き、辺りを見回すと、同じように他の馬車からも子どもたちが降りてきていた。
ほとんどの子ども達は、たどり着いた王城に興奮してはしゃいでいる。
カトリーナも王城―ホルムクレン王城を正面から見上げた。
―お城なんて初めて見るけど、何というか、すごいとしか言葉が浮かばないわ。
遠目から見た時は「綺麗なお城」に見えたのが、間近でみると圧倒される。
「すごいでしょうー?この王城はー古代に建てられたのをーそのまま魔法で復元しているんですー」
運転手が王城を見上げるカトリーナ達に説明する。身振り手振りで話す運転手を見て、王城の話に感心しつつも、ローブがバサバサと揺れるのに目が行ってしまう。
―あのローブって動きづらくないのかしら・・・デザインは好きだけど。
運転手はその視線に気が付いたのか、こちらを見て微笑み
「このローブ、かっこいいでしょうー?ザ・魔法士って感じでー」
と言ってその場でくるりと回って見せる。
「ええ、素敵だわ」
「でしょー。まぁ、正直動きにくいんだけどー、けっこう気に入ってるのよねー。ほらぁ、知ってると思うけどー、ここって結構気が滅入る所じゃない?だからー、せめて仕事着だけでもー美点が無いとさー」
「気が滅入る?」
きょとんとしたカトリーナに、運転手もまた、きょとんとする。
一緒にいるデイジーが「何のこと?」と妹のエイミーに聞き、エイミーが「お母様たちが話していた「聖女の呪い」?」と自信なさげに答える。
「聖女の呪い」?
カトリーナはエイミーに聞こうとしたが、運転手の「やばー」と、あまりやばそうに聞こえない声に遮られる。
「えー、あー、ごめーん。今のは聞かなかったことにしてー。その説明これからだったー」
「説明?」
今度はデイジーが尋ねる。
「ここは大丈夫よー。詳しくはー、コルファー先生が説明してくれるからー」
運転手がカトリーナ達から目を逸らし、王城の扉の前に立つ男に目を向けた。男は船を降りて直ぐに先導していた引率係らしい青年だった。
彼がコルファー先生らしい。
「はい、では皆さん。集まってください。これから王城の中に入ります。はぐれない様に私について来てください」
それと、と言ってコルファー先生が鋭い目をこちらに向ける。
「メディアン先生、後でお話がありますので」
コルファー先生に言われた運転手―メディアン先生が「最悪―、ホント地獄耳」と呟いた。
―この人、先生だったんだ。
ただの運転手だと思っていたカトリーナは、ちらりとメディアン先生を見た。
「あーあ。面倒くさー・・・。じゃあ、みんなコルファー先生の所に行っておいでー」
メディアン先生がカトリーナ達に手を振る。
「また会えたら、レーム学園でよろしくねー」
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メディアン先生に見送られ、コルファー先生についていくと、ちょっとした広間のような場所に辿り着く。
本来は会議の間として使わてれいたのか、大きなU字机が置かれている。
コルファー先生の指示で、子ども達は各々好きな席に座っていく。
カトリーナが適当に座ると、ラトリエルが「隣いい?」と聞いてきた。
「もちろん。どうぞ」断る理由も無いのでそう答えると、ラトリエルは安堵したように右隣に座る。
―気にせずに座っていいのに・・・。でも、嫌われているわけではなさそうで良かったわ。
デイジーとエイミーとは少し離れてしまい、向かい側に二人を見つけた。もちろん、二人は隣同士で座っている。
デイジーがこちらに気が付いて、軽く手を振ったので、カトリーナも手を振り返した。
ざわざわし始めた空気の中、コルファー先生が指を鳴らして注意をひく。
「はい、皆さんお静かに願いします。今からレーム魔法専門学校―通称レーム学園に向かう前の事前説明に入ります」
―レーム学園って呼び方、先生でも使うのね。
カトリーナが変な所に感心している最中もコルファー先生の話は続く。
「これは、ただの説明会ではありません。皆さんの人生に関わる大きな選択に必要な知識です。よく聞いてください」
コルファー先生の真剣な表情と声で、子ども達は静かになった。
「まずは一つ。皆さんもここに来る前に耳にしたかもしれません。我が校に死亡者が多いという情報についてですが―」
「それは事実です。レーム学園では毎年、生徒そして教員も含む数名が、自ら命を落としています」
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