19.閑話~姉の笑顔が許せない妹の話~(1)
※今回はエレナ視点です。
閑話ですが長くなったので、4回に分けて投稿します。
「どうして!?なんで私が閉じ込められないといけないの!!!」
生まれてから初めて父親に叩かれ、言う事を聞かなかった罰として、自室での謹慎を言い渡されたエレナは、自分を閉じ込めた侍女達に八つ当たりをする。
「おかしいじゃない!怒られるのも、叩かれるのも、お姉さまの役目じゃない!なんで、なんで、私がこんな目に遭うのよ!!」
癇癪を起こすエレナを侍女たちは、困ったように宥める。
「旦那様も仰っていたでしょう。カトリーナお嬢様に近づいてはなりません」
侍女の一人はそう言うと、顔を青くして怯えたように続けた。
「カトリーナお嬢様は恐ろしい方です。エレナ様、お願いですから言う事を聞いてください」
「この私に、偉そうな口をきくんじゃないわよ!!」
エレナは侍女の腹を、思い切り蹴り飛ばした。
エレナが物心ついた頃から、姉のカトリーナは両親から疎まれ、使用人たちからも見下されていた。
カトリーナという存在は、この家にとって異質だった。
エレナたち家族は皆、白金髪の碧眼であるのに、カトリーナは一人だけ、くすんだブラウンまじりの髪に、曇天の様な灰色の瞳。
そして、何よりも異質なのは、カトリーナ一人だけが持って生まれた、魔法の才。
エレナは、それの何が恐ろしい事なのかは分からなかったが、両親は姉の持つ魔法の才を、特に忌み嫌っていた。
顔立ちが母親似であることが、唯一、カトリーナが自分たち家族と血のつながりがある証であった。それ以外は、同じ姉妹でありながら、何もかもが違った。
両親の愛情も、可愛いぬいぐるみも、綺麗なドレスも、アクセサリーも、すべてエレナの物だ。姉は何も持たない、何も与えられないのが常だった。
エレナが転んで泣けば、関係の無いカトリーナが責められ、時には折檻を受けていた。
「私は何もしてないわ!!エレナが勝手に転んだんじゃない!!」
そう言って無実を訴える当時の幼かった姉を、父親は更に強く打った。打たれた勢いで、床に倒れたカトリーナと目が合った。
「おねえさま」
当時のエレナは、片方の頬を腫らした姉を指差す。
「おねえさまに、いじわるされた」
それを聞いた父親は、烈火の如く怒り、蹲るカトリーナを蹴りつづけた。
「私は嘘なんて言ってない!虐めてたり、転ばせたりなんてしていないわ!!」
「嘘をつくな!お前が虐めたんだろう!化け物のくせに性格も悪いとは、本当に救いようのない」
幼いカトリーナは必死に「私じゃない、私じゃない」と言ったが、父親の折檻は、彼の気が済むまで終わらなかった。
当時のエレナは、最後までその様子を見ていた。
無実の姉を、この家で一番偉い父親が踏みにじっている。この家で一番幼いエレナの嘘を鵜吞みにして。
それ以来、エレナは自分からカトリーナに近づいては「お姉さまに虐められた」と、両親や使用人に泣きつく「遊び」をした。
大人たちは皆、エレナを庇い、カトリーナを攻撃した。
エレナは、それが楽しくて仕方がなかった。
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