18.馬車の中で~同乗した双子の姉妹~(2)
カトリーナは目の前に座る双子姉妹に目をやった。
この時になって、馬車の運転席から「出発するよー。揺れるから気を付けてねー」と間延びした声が聞こえる。
20人ほどを乗せた数台の馬車が順番に動き出し、カトリーナ達が乗った馬車も進み始めた。
エイミーは希望通りに姉の隣に座れたのにも関わらず、じっと下を向いて座っている。
―前に座っている私達が怖いのかしら。けっこうな人見知りね。お姉さまのデイジーは大変かもしれないわ。
デイジーは妹の態度を良く思わないだろうが、エレナ・トレンスを妹に持つカトリーナにしてみれば、エイミーは最高の妹に見える。一度も目が合わないけど。
対して姉のデイジーは、社交的な性格の様だった。
「私達は帝国から来ましたの」とか
「母とクッキーを焼きましたの。よかったらもらっていただけませんか?」とか
いろいろと話を振ってくれたので、たった数分間で、とてもありがたい存在となった。
隣に座っているラトリエルも、口数は少ないがこの賑やかさを嫌がってはなさそうだ。
―二人だけの時にも話しかけたら良かったわ。
カトリーナは少しだけ後悔したが、出会って直ぐにムードメーカーとなったデイジーには、感謝しかない。
デイジーが話を振った事によって、ラトリエルがカトリーナと同じマシャード王国出身なのも知った。
「お二人はマシャードでお会いしたことはなかったのですか?」
同じ王国から来たと知ったデイジーが不思議そうに聞く。
「私はあまり社交界に出られなかったから」
社交界どころか、少し前まで伯爵邸の外にも縁のなかったカトリーナは、特に隠すことも無いと正直に話す。
意外だったのはラトリエルが「僕も」と言ったことだった。
「あんまり機会がなくて」と少し言いづらそうにしているラトリエルに「勿体ないわ」とカトリーナは心の中で思った。
―ラトリエルを見た人は、きっとみんなラトリエルの事を好きになるはずだもの・・・何か事情があるんでしょうけど、勿体ないわ。
つくづく勿体ない。
カトリーナは何度もそう思った。
ラトリエルの様子を見てデイジーは、その話題を掘り下げずに「そうなのですね」とだけ言って、直ぐに別の話題に逸らす。
―見習いたい社交性だわ。こういうのを世渡り術っていうのかしら。
貰ったクッキーをほおばりながら、カトリーナは改めて姉妹を観察する。
社交的な姉と内気な妹。
見た目はそっくりなのに、違いすぎる双子。
姉妹の話(話したのは全部デイジー)を聞くに、二人が両親に愛されて育ってきたのは明白だった。
カトリーナに対するトレンス伯爵夫妻とは違って。
―でも、不思議だわ。それならどうして、ご両親は大切な娘達をレーム学園に通わせるのかしら。
カトリーナがそれとなしに聞いてみると、デイジーは誇らしげな顔をした。
「私達の両親はレーム魔法専門学校―呼びにくいですわ。二人ともレーム学園の卒業生なんです」
座ったまま腰に手をあて、胸を張りデイジーが続ける。
「両親は私の自慢で理想の大人なのです。だから、少しでも近づけるように自分から行きたいと申し出ましたの」
姉らしく、貴族令嬢らしく、しっかり者として振舞いつつも、純粋に両親を慕うデイジーをカトリーナは眩しく感じた。
―確かに優しそうで立派なご両親だわ。本当に大好きなのね。
カトリーナは「素晴らしいご両親ね。羨ましいわ」と心から言った。
デイジーは嬉しそうに「そうなの!」と砕けた口調で言い、隣に座っているエイミーも嬉しそうに微笑んだ。
「ただ・・・」
デイジーは馬車に乗ってから初めて、ほんの少しだけ表情を曇らせる。
「お父様とお母様。本当は私達に行ってほしくなさそうで・・・」
「デイジー」
馬車に乗ってからほとんど初めて、エイミーが口を開く。お姉さま、ではなくて名前で呼んでいたのが、ひどく印象的だった。
「お父様とお母様が、信じて送り出してくれたから、わ、私達は大丈夫よ」
エイミーの顔をじっと見つめたデイジーは「そうね」と、落ちついた声で言った。
「己の良心に従う。後悔しない道を選び続けること」
デイジーは自分に言い聞かせるように呟く。
カトリーナとラトリエルには意味が分からず、お互い顔を見合わせて首を傾げた。
デイジーの言葉の意味を理解する日は、思いのほか早く訪れることになった。
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