17.馬車の中で~同乗した双子の姉妹~(1)
「ラトリエル・ハスティー。僕も今年の入学生だ。よろしく」
これから勉学を共にする美少年と挨拶をしたものの、カトリーナは困っていた。
カトリーナもラトリエルも、そのあと何も話さないので、室内には気まずい沈黙が流れていたのである。
―どうしよう。何か話した方が良いのかしら。でも・・・
カトリーナはラトリエルの方をちらりと見る。
―本当に綺麗な人だわ。声を聴かなかったら、女の子と間違えるかもしれない。本人には悪いかもしれないけど。
見た目が綺麗なラトリエルに、カトリーナは緊張していた。
ラトリエルの方は、黙ったまま窓の外を見ている。無意識なのか、ラトリエルはずっと左手で右手を強く握りしめている事に、カトリーナは気が付いた。
彼の癖なのかもしれない、とカトリーナは思ったが、これ以上黙ってジロジロ見るのは失礼だと、そっとラトリエルから視線を外す。
―あまり会話とかが好きじゃないのかも。なら、静かにしていた方が良いわね。
綺麗な人には嫌われたくない。それは男も女も同じだ。けれども、このままの沈黙は気まずい。
伯爵家の人間たちのように自身に対して敵意を持つ相手には、そもそも好かれる必要が無いため気にせずに振舞えばよかった。
しかし、そうじゃない相手にどのように振舞えばいいのか、カトリーナにはわからなかった。
―私ってコミュ障だったのね。知らなかったわ・・・。
思わぬ自分の欠点に少しショックを受けていると、馬車の外から二人の少女がこちらを覗き込んできた。
カトリーナが扉を開けると「ご一緒していいかしら?」と一人が声を掛ける。
外にいたのは、先ほど両親と一緒にいた、双子の姉妹だった。
同じデザインのワンピースの色違いを着ていて一人は黄色、もう一人は水色のワンピース。声を掛けたのは黄色の方だ。
「どうぞ」
姉妹に声を掛けたカトリーナは、元の席につめる。
「ありがとう。私はデイジー・エステルと申しますわ。デイジーとお呼びください。こちらは妹のエイミーです」
黄色い方―デイジーは品よくお辞儀をして挨拶をする。水色の方―エイミーは黙ったまま姉のデイジーにくっつくようにしている。
カトリーナと、さっきまでじっとしていたラトリエルも挨拶をした。
―よかった。この二人が姉妹で適当に話してくれれば、沈黙はなくなるはずよ。そしたら、私は寝たふりでもしてこの場を切り抜けられるわ。
カトリーナは一人ほっとする。
ところが、この双子たちは予想外なにぎわいを見せた。
「隣には座れないわ、エイミー。向かい合って座れるんだから、そっちに座りなさい」
デイジーが優しく、けれども有無を言わせない声で妹を窘める。
横に二人ずつしか座れない座席にも関わらず、エイミーはラトリエルの隣に腰を下ろした姉の隣に座ろうとしたのだ。
ラトリエルが困惑して席を詰めようとするが、それは無理な話だった。
「で、でも、お姉さま」
エイミーはそう言って、下を向いて黙り込む。
「いい加減にしなさい。こんなことで煩わせないで」
デイジーが妹を叱ると、デイジーの隣にいたラトリエルが
「僕が向かいに座るよ。特にこだわりはないから」
と言って荷物ごとカトリーナの隣に移る。
すかさずエイミーは、空いた姉の隣に滑り込んだ。
デイジーはそんな妹を睨みつけるが、直ぐにカトリーナ達の方に向き直り
「ごめんなさい。妹はとても人見知りで・・・。決してあなた方の事が嫌いなわけではないの」
と頭を下げる。
「いいえ、気にしてないわ。お姉さんが好きなのよね」
カトリーナがそう言うと、デイジーは
「本当にごめんなさい。ありがとう。ほら、貴女もお礼を言いなさい」
と言って妹の肩に手を置く。
エイミーはこちらを見ずに「ありがとう」と俯いたまま言った。
妹の様子に姉のデイジーは文句を言いたそうだったが、この様子では埒が明かないとカトリーナとラトリエルは姉妹を宥めて座ってもらう。
―まぁ、デイジーが怒るのも無理ないわね。妹ってどこの家でも甘やかされるのかしら。
わがまま放題に育てられた自分の妹、エレナを思い返しながら、カトリーナは目の前に座る双子姉妹に目をやった。
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