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16.出会った二人~の、周りの人々~(2)

「ここからは、馬車での移動となります。そして、入学者以外の方の付き添いは、ここまでとなります」


 学校側の引率係だろうか、一人の青年が子どもたちに、そして付き添いの大人たちに声をかける。


 カトリーナは―付き添いの居ない子ども達は、さっさと馬車に乗り込んだ。


 青年の言葉に対する、付き添いの大人たちの反応は様々である。



ある家族連れの様子―


「いいかい。忘れたらいけないよ。己の良心に従って行動するんだ。いいね?」


 鏡合わせのようにそっくりな姉妹に、父親が優しく語り掛ける。


 母親が姉妹に交互にキスをして


「お母様はいつでも貴女達の傍にいるわ。決して無理をしないで。辛かったら先生に言うのよ」


 と言って二人を抱きしめた。



とある主と従者の様子―


「ここまでご苦労だった。ホルムクレンは初めてだろう。まぁ、俺も初めてだが」


 ミルクティー色の長髪が目をひく青年が、付き添いの侍従に声を掛ける。


「次に船が出るまで、大分、時間があるだろう。少し観光してくるといい。滅多に来られる所ではないからな」


「レスター様」


 侍従が心配そうに主を呼ぶ。


「お気をつけて」



高貴な令嬢と使用人たちの様子―


「お嬢様・・・」


 子ども達の中で最も高貴であろう令嬢の侍女が、令嬢の様子を窺う。


「私達は、付いて行けないとの事ですが……」

「そうみたいね、別に構わないわ。あぁ、でも、荷物を馬車に詰めるところまではしなさいね」


 令嬢はそう言って侍女に袋を渡す。中身はもちろんお金だ。


「観光に必要なら使いなさい」


「い、いいえ。そんな・・・」


 口では断りながらも侍女は袋を握りしめる。他の使用人も嬉しそうだ。


 令嬢はそんな使用人に一瞥もくれずに、馬車に歩を進めた。




「ふざけるな!ここから娘を一人で行かせるだと!?」


 ほとんどの大人達が子ども達に別れを告げた中、男が一人、引率の青年に突っかかる。


 怒鳴られた青年は少しも動じることなく淡々と説明する。


「この先はお嬢さんをはじめ、魔法の才をお持ちの方しかお連れできないのです。ご安心を。レームまでは安全にお嬢さんをお連れしますから」


「フン、白々しい。何が「レームまで」だ。いいか、娘に何かあってみろ、お前たちの首は飛ぶと思え」


 男の脅しに青年は、表情も変えずに話す。


「貴方にその権限は無いはずです。それにどうなるかはお嬢さん次第ですから。貴方もお嬢さんもご自分で契約書にサインしたでしょう。『入学者の身に何が起こっても学校側に責任は問わない』と」


「それは・・・!」


「納得いかないのでしたら、このままお嬢さんを連れてお帰り下さい。理事長と校長には、入学辞退をお伝えいたしますので」




-----------------------




―何だが揉めているわね。いい迷惑だわ。


 カトリーナは馬車の中から外の様子を見ていた。自分には無縁の光景だな、と思いながら。




少し前―


 付き添いの居ないカトリーナは、さっさと馬車に乗り込んだ一人だった。


 乗り込んだ時にはすでに先客がいたが、その先客はカトリーナが中を窺っているのに気が付くと、一礼して半開きの馬車の扉を大きく開けた。


「どうぞ」


 中にいた少年が、カトリーナに手を差し伸べる。


 ラベンダー色の髪に、澄んだ青色の瞳をした少年は、まごうことなき美少年だった。身なりや仕草からしてどこか由緒正しい家柄の令息なのだろう。


「あ、ありがとう」


 カトリーナは少し緊張して手を取り、馬車に乗り込む。


「荷物は座席の下に入れるといいよ。多分この馬車は満席になるから」


「ええ、わかったわ」


 少年の言葉に従って、奥の席までつめて座り旅行鞄を座席の下に入れる。


「初めまして。カトリーナ・トレンスよ。貴方も入学生よね」


 握手を求めるカトリーナに答え、手を握りながら名乗る。


「ラトリエル・ハスティー。僕も今年の入学生だ。よろしく」


 これがカトリーナの運命の人との出会いだった。

 けれども、この時にはまだカトリーナも、そしてラトリエルも、そのことに気が付いてはいなかった。


 後に生涯を共にする二人がお互いを意識するようになるのは、まだ先のお話である。


お読みいただきありがとうございます。

次回も読んで貰えると嬉しいです。


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