表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
113/124

113.仲直り


フォルカー公爵邸の応接間にて―


「全く。ノレッジ校長から聞いた時は、流石に焦ったよ」


 安堵の息をつきながら苦笑いをするのは、フォルカー公子ことイヴだ。

 憂いた顔も美しい。


「ご心配おかけしました。でも、何も問題ありませんでしたよ」


 イヴの真向かいにあるソファーに腰かけて、カトリーナは言った。先程まで動けなかった身体は何の問題なく動き、制服は乾いている。

 

「問題大あり。貴女はそこの―」


 イヴの視線は、カトリーナの左隣にちょこんと座る()()の幼子に向けられた。


 5歳程の少女はフワフワとカールした髪を二束に結われ、白と水色の、これまたふわふわとしたフリルの可愛いワンピースを着せられている。まるで絵本のお姫様が、そのまま出てきたような愛らしさだ。


 少女は慣れない姿に最初は不機嫌だったが、カトリーナが


「可愛い……似合っているわ」


 と、偽りなく褒めると満更まんざらでもない顔をして


「まぁ、がまんしてあげる」


 と、少し機嫌を直したのだった。


「貴女はそこの人魚に、金縛りを仕掛けられたんだよ」


 イヴの言葉に少女―人魚はツンとした表情で


「もうしないもん。カトリーナと仲直りしたから」


 そう言い返してカトリーナを見上げ「そうでしょ?」と首を傾げて聞いてきた。


「ええ、もう仲良しよ」


 カトリーナは人魚の髪をそっと撫でる。撫でられた人魚は、嬉しそうに抱きついてきた。自分の顔がデレデレしているのが、見えなくても分かる。


―仕方ないわ。だってこんなに可愛いんだもの。


 カトリーナの様子を目の前で見ていたイヴは、呆れた様に口を開く。


「貴女は見た目が良ければ、誰でも良いんだね」

「そんな事ないわ。私は基本、私に好意的な人は容姿問わず好きですよ」


 そう微笑むカトリーナに、イヴは大きなため息をつく。


「これで魅了されてないって、本当かなぁ?」




----------------------------------------



少し時を遡って―


「アタシをきらわないで。アタシをゆるして」


 金色の瞳に涙をためて許しを請う人魚の姿に、仰向けで動けないカトリーナは見惚れながらも胸が痛んだ。


―これは罠じゃないわ。この子は本当に傷ついている。脅かした事を……私に警戒されている事を。


 カトリーナは、こんなにも真摯(しんし)に謝られたのは初めてだった。


 いや、実際はアザミの件でイヴから謝罪はあったが、イヴに何かをされた訳じゃない。ジゼルに至っては論外だ。



―使用人達の命乞いとは違う。


「お許しください、お嬢様!」

「もう二度とこのような真似は致しません!」

「どうかご慈悲を!!」

「カトリーナお嬢様!どうか、お許しを!!」



 床や地面、時には泥に塗れて這いつくばり、へりくだって許しを請うた使用人達が脳裏をよぎる。彼彼女らは殺されたくない、屋敷を追い出されたくない一心で言葉を紡いでいただけだ。カトリーナにした事を心から悔いて謝った者は一人もいない。


 目の前の幼い人魚の様に。


「許すわ。だから、もう泣かないで」


 カトリーナは穏やかな声で許した。もう恐怖で声は震えなかった。

 人魚は瞳を大きく見開いて「ゆるしてくれるの?ほんとうに?」と不安そうに聞く。


「ええ。だって、私はどこも怪我していないもの。貴女は私を傷つけていないわ」


 カトリーナの言葉が本心だと伝わったのだろう。人魚はクシャリと顔を歪ませた後、ホッとしたような顔をして


「ありがとう」


 と、言った。


「ところで、私ずっと身体が動かないの。何か知らない?」


 そろそろ起き上がりたいカトリーナが尋ねると、人魚はおそるおそる


「しょうじきに言ってもきらわない?」


 と聞いた。


「嫌わないわ。だって今、仲直りしたでしょ?」

「なかなおり?」

「仲良しになったって事よ」


 カトリーナが言うと人魚は言い慣れ無さそうに「なかなおり……」と呟いた。


「なかなおりしたから、しょうじきに言うわ」


 人魚はそういうと、カトリーナの額に手をかざして、瞳を閉じた。翳された手がひんやりとする。


「アナタが起きたときに、逃げられたくなかったから、うごきを封じたの。もう二度としないわ。ゆるしてちょうだいね」

「そんなことできるのね……。いいわ、もうしないって約束してくれるなら」

「やくそくする」


 そう言って暫くしていたが、一向に身体は動かなかった。

  少し心配になったカトリーナは


「大丈夫?逃げないから安心して良いのよ?」


 と言うと、人魚はまた少し泣きそうになりながら、もごもごと何かを言った。


「……ない」

「えっ?」

「解きかたが、わからないの。おとうさまとおなじようにしているのに」



 こうして長い間、二人が途方に暮れていると、ノレッジ校長から話を聞いたイヴが、駆けつけてくれたのだった。





お読み頂きありがとうございました。

次回も読んで貰えると嬉しいです。

よろしければ、評価★★★★★やブックマークをお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ