10.山奥での顛末~手加減が出来ないのも考えもの~
話を遡り、どこかの山奥にて―
カトリーナの元にナイフを持った男が迫っていた。けれども、カトリーナは少しも慌てなかった。
ここ数日は何事も無かったが、少し前までは何度も命を狙われていたのだ。今更、驚くことでも無い。
―本当にお父様たちって無駄な事しかしないわね。
カトリーナは舌打ちをしつつも、得意の水魔法で対抗する。男はすんなりと捕まり、危なげなく馬車から追い出すことが出来た。
「マジかよ!」
ナイフを落とした男が悲鳴を上げる。
「ただのお嬢様じゃねぇのかよ!魔法士とか聞いてねぇぞ!!」
男の悲鳴にカトリーナはニヤリと嗤う。
もちろん、魔法が解けない様に気を付けながら。
「貴方、お父様に騙されたのね。大方、私が魔法を使える事なんて一言も説明しなかったんでしょう?」
「あぁ、そうだ!俺は騙されたんだよ!頼む、見逃してくれ!!」
命乞いをする男にカトリーナは心底呆れる。
「嫌よ。何で自分を殺しに来た人に優しくしなきゃいけないの?私が「ただのお嬢様」だったら、何の躊躇いもなく殺して報酬を貰っていたくせに」
カトリーナは「ふふっ」と笑みを溢す。
「ちなみに私はまだ魔法士じゃないわ。これからなる予定だけどね」
「一緒じゃねぇか!!!」
男の命懸けの突っ込みを聞き流し、カトリーナは思案する。
―貴族のくせにお父様がケチで助かったわ。きっと私が魔法を使える事を話して引き受けた暗殺者なら、今の私じゃ敵わなかったかもしれないもの。
暗殺を頼んだ事の無いカトリーナはちゃんとは知らなかったが、子どもとは言え魔法の才を持つ者の暗殺依頼は、そうじゃない人の依頼よりも高額だ。
トレンス伯爵は、自分たちの平穏のためとはいえ「お金をカトリーナに使う」という行為に拒否感が強く、高額な報酬を支払いたくなかったのである。
「ちくしょう!こんなガキにやられるなんて!」
男の嘆きを聞き飽きたカトリーナは、そろそろ終わらせようと、最も確実に相手が「動かなくなる」魔法を使った。
何時ぞやの時にも使った、水球の中で窒息死させる魔法だ。
「さようなら」
「ま、待って、ゆる―」
最後まで言う事も出来ずに男は水球に飲み込まれる。
ごぼごぼごぼ……
苦悶の表情を浮かべながらもがく男を、馬車の淵に腰掛けて眺めた。
が、ここでカトリーナはあることに気が付く。
―あれ?そういえばここって伯爵領なのかしら?違ったら不味いかも?
以前カトリーナが伯爵家の侍女達を脅した通り、自領の平民を貴族が殺しても、その貴族は罪を問われない。
しかし、それはあくまでも「自領」での話だ。
今カトリーナがいる山奥が伯爵領ではなかった場合、貴族のカトリーナとて殺人の罪を問われるのだ。
暗殺者から身を守ったのだと説明しても・・・
―あの親達は馬鹿だけど、この機を逃す筈はないわ。自分たちが殺そうとしたことを棚に上げて、私の正当防衛の主張を握りつぶすかもしれない。出来るのかは知らないけれど。
ここで男が死ぬのは不味いと判断したカトリーナは、慌てて水球から男を開放する。
あと一歩であの世行きだった男は、ゲホゲホと水を吐き出したかと思えば、ビクビクと全身を痙攣させて地面に転がった。
まだ、生きてはいるがもう手遅れかもしれない。
カトリーナはここに来て途方に暮れた。もちろん、男の心配ではなく、自身の保身について頭を悩ませる。
―どうしよう、医学の知識なんて知らないし。それに、どうやってここから港まで行けばいいのかしら・・・。
馬車を動かそうにも、カトリーナに馬を操る術はない。悩んだ末にカトリーナは、馬車に置きっぱなしの旅行鞄の中を探った。
―まだ取って置きたかったけど、やってみるしかないわね。
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