わたしのことば
メッセージという映画がある。アメリカの映画で、原題はARRIVAL。日本では2017年に公開された。
宇宙人の登場するSF映画なのだが、戦闘シーンも、殺戮シーンもない。
そんなに珍しいことでもないのかもしれないが、私にとってSF映画と言えば、プレデターやエイリアン、スターウォーズ等である。だからとても新鮮だった。
でも、そう思ったのはきっと私だけではないだろう。この映画の主な内容は宇宙人の描く文字を解読していく、というもの。今までにもそういうシーンのある映画はあっただろうが、それ自体が物語のメインになった映画は無かったのではないだろうか。・・・映画について詳しい訳ではないから断言は出来ないのだが・・・、少なくとも珍しくはあるだろう。
この映画が、公開当時話題になっていたのを覚えている。
私が専門学校に通っていた時に、講師が授業中この映画をお薦めとして紹介していた。
授業の名前は覚えていないが、内容は覚えている。過去に流行ったものや話題になったもの、基本はストリートカルチャーの歴史だったが、それを講師が楽しそうに話していた。
嫌いな授業ではなかった。
何の役に立っているのかはいまいちよく分からなかったが、それでも視野はいくらか広くなったような気はする。メッセージの他にもブレードランナーについても講師は熱く語っていた。ちょうどその頃にブレードランナーの続編となるブレードランナー2049が公開されたからだ。
話が逸れたのでメッセージの話に戻すが、正直、私はあまり観たいとは思わなかった。元々SF映画はあまり好きではない。実のところ、プレデターもエイリアンもスターウォーズも、内容が理解できるほどしっかり見たことはないのだ。
ちなみにだが、ブレードランナーもブレードランナー2049も、未だにちゃんと見たことはない。
・・・この講師とは、どうも映画の好みが合わないらしい。
なぜこんな話をしているかというと、最近この映画がテレビで放送されていたのを見たのだ。例によって、あまりしっかりとは見ていない。
それでも、私は主人公の言語学者が宇宙人の文字の解読を始めるシーンを観て、
”答え合わせが出来ないのに正確に解読する事なんて出来るのだろうか?”
と思ったのだ。
でも直後に、母国語とは別の言語を世界で初めて通訳した人は、なぜ意味を理解できたのだろうとも思った。そもそも、私たちはどうして言葉そのものを理解出来たのだろうか。
私たちは、一つの言葉に一つの共通の意味を当てはめて会話をしている。その意味は、前後に付ける言葉によって変わることもある。正直その点については、共通しきれていない場合もあるだろう。だがそれ以前に、私たちは本当に言葉そのものに、共通の意味を当てはめることが出来ているのだろうか?
意味が分からなければ、辞書やインターネットで意味を調べる。でも、その説明に書かれている言葉の意味を正確に理解出来ていなかったとしたら。それが自分だけでなく、ほとんどの人に起きている現象だったとしたら。
私たちは、本当の意味で相手の会話の内容を理解出来ているのだろうか。
偶然が重なって、全く違う意味だと勘違いしている言葉もあるのではないだろうか。
それぞれが、それぞれのそれぞれだけが理解できる言葉で話していて、その言葉を、それぞれの言葉の意味で理解しているのではないだろうか。
私は映画を見ながら考えていた。私の話している言葉は、日本語でも、英語でもなく、わたしのことばなのではないかと。
私は、こんなことを文章にしたらちょっとかっこいいかな、なんて思って、今、パソコンに向かっている。そんな動機で書いている文章だから、きっとこの文章はそう遠くない未来、私の黒歴史のうちの一つになるだろう。
最後まで読んでくれてありがとう。でも、どうか聞き流してほしい、そして忘れてほしい。