三人目のお客様
北と東の扉は開かなかった。
鍵が掛かっているみたいね。唯一、西の扉『厨房』だけは開けられたのだけど、そこにいるのはジークムントだけ。
美味しそうな匂いがするだけで、余計に空腹を促進させた。これは失敗ね……。
机に伏せていると、西の扉が開く。
「お待たせしました、ソフィ様」
「……出来上がったのね」
「どうぞ、お召し上がり下さい」
出されたのは、ただのスープだった。
「こ、これだけ……」
「申し訳ございません。材料が不足しておりまして」
「そ、そんな……」
何も無いよりは良いけれど、出来れば固形物を口にしたかった……。今は我慢ね。わたくしはスプーンを手にし、スープを掬った。
それをゆっくりと口へ運ぶ。
「…………」
「ソフィ様? 御口に合いませんでしたか?」
「……その」
「申し訳ございません、作り直して――」
「違うの。すっごく美味しいの!! なによこれ、ただのスープかと思ったら、とんでもなく美味しいじゃないっ! ジークムント、あなた本物ね」
一口にしただけで芳醇な味わいが広がった。舌が喜んでさえいた。かつてこれ程の美味と感じたスープはない。
「安心しました。良かったです」
「ありがとう……ジークムント」
わたくしは嬉しくて、涙がボロボロあふれ出た。美味しい……本当に美味しい。なんでこんなに温かくて、真心が篭もっているの。ズルぎる……。
ジークムント、彼は……良い執事ね。こんな空間だからこそ、少し彼を信頼しつつあった――けれど。
事態は急変した。
突然、北の扉が開いた。
あれ……さっきは開かなかったのに。
「え……。まさか、また人が!?」
本当にどうなっているの。
しかも、わたくしは彼女を知っている。
向こうも驚いてこちらを見る。
「どうしてソフィがいるの!」
「こちらのセリフよ、伯爵令嬢のカルーナ」
このお屋敷は、わたくしとジークムントだけではないというの……?




