あやしい執事さん
執事の服に身を包む若い男性。
黄金のような金髪。
その流れるような長い髪をポニーテールに束ね、蝶々のアクセサリーで結わえていた。彼は静かに頭を垂れ、礼儀正しくわたくしの名を呼んだ。
「お初目にかかります、ソフィ様。私はこのお屋敷を任されております『ジークムント・バーネイズ』と申します。あなた様の執事として尽くして参りますので、以後お見知りおき下さると幸いです」
なんとまあ、丁寧なご挨拶。
これほど若く、肝の据わった執事さんは人生で初めてかもしれない。
「ジークムントさん、ね」
「ええ、呼び捨てで構いませんので」
「分かったわ、ジークムント。ひとつ教えて欲しいのだけど」
「如何なさいましたか」
「如何も何もないわ。このお屋敷なんなの? 教えて頂戴」
「……なるほど、ソフィ様は自分が置かれている状況よりも、お屋敷の方が気になるのですね」
「連れて来られた理由も知りたいけれど、きっと三日後には分かるのでしょう。だったら、先にこのお屋敷が何なのか知る方が先決だもの」
そう、今はとにかくあの壁とかやたら蝶々が舞っているお花畑とか……気になる事だらけ。そもそも、こんな場所は自分のいた『ウルズ帝国』にはなかったはず。
あんな高い壁があったら目立って誰だって気づく。無断でこんな建物を作ってしまって帝国だって黙っていないでしょう。もし帝国に建てられているのなら、きっと助けだって……そんな僅かな希望でも持ちたい。
「……残念ですが、私も知らないのです」
「し、知らない? どういう事なの」
「実を言えば私も連れて来られたと言いますか、執事を演じるように手紙があったんですよ。だからこうしてソフィ様のお世話を担当する事になったんです。主に食事ですけど」
「そ、そんな……」
「でもご安心を。料理だけは大得意でして、これでも各国の王室を巡っていたんですよ」
まさかそれだけの理由で連れて来られたのでは……。でも、そうね、不味い料理を食べさせられるよりはマシかなぁ……もう空腹で限界。
「あぁ……も、もうお屋敷の事よりもお腹が」
「分かりました、ソフィ様。私にお任せ下さい。あちらの部屋は厨房になっていますので、行って参ります」
そうなんだ。
西の扉は『厨房』っと……。
え、厨房あったんだ……。
西、北、東にそれぞれ扉があった。
探検してみる価値はありそうね。
待っている間に確認してみましょう。