落ち着こう
手紙を読み終えると重要な事に気づいた。これでは当面の間、皇子様にお手紙が出せないという事実に。
「……あぁ、どうしよう。このままでは誰かに取られてしまう……」
そう思えばこそ、早くこの変なお屋敷を脱出しなきゃと思った。必死に生きなきゃ……生きて、今度こそクイル皇子に会おう。
とにかく落ち着くのよ、わたくし。
テーブル上にティーセットがあるから、お紅茶を飲もう。何故かポッドの中身が入っていて、出来立てだった。
黄金色の液体がカップを満たす。
「良い匂い……まるでエヴァの作ったお紅茶のような。あら、美味しいですわね」
なんと口当たりの良いお上品な味。こんな閉じ込められている空間で、これ程の逸品を戴けるとは思いもしなかった。
そうして、わたくしは心を落ち着かせた。なんとか精神を乱す事無く平常でいられた。この紅茶に救われたわ。
「よく見ると本棚が多いわ。へぇ、これは面白そうな書物」
どうせ時間もあるし、やる事もなかった。脱走しようものなら命の保証もないようですし、わたくしは読み物に耽る事にした。
――恐らく、半日が経過。
空は見えていた。
茜色に染まり、いよいよ夕刻だろう。
そっか、もうそんな時間なんだ。
「お腹、空きました……」
今まで何も口にしていない。
おやつなんて無かったし、誰か来る気配もなかった。このまま静かに一日が終わるのかな。せめて……食事を。うぅ……。
空腹に喘いでいると――
ガチャっと扉の音がして部屋の奥から人が現れた。……え、人って居たんだ! ずっと孤独かと思ったけれど、そうでもなかったのね。あの手紙にある通り、誰かしらお世話にくるようね。
でも、あの人はいったい……?