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氷の公爵令嬢と炎の皇子  作者: 桜井正宗


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12/12

氷と炎

 大体の状況を飲み込んだわたくしは帰還を要望した。


「うん、それが最後の選択だった」

「最後の、選択ですか」

「そうだ。もし元の世界に帰れば君はまた殺されてしまうかもしれない。けれど、この隔絶されたお屋敷ならずっと平和に暮らせる」



 だから三日後に迎えに来て、今後をどうするか決めてもらう方針だったらしい。でも、予定外の事が起きて一日目で終わったみたい。



 本来であれば、カルーナも閉じ込めて罪の意識が変わればと願ったようだけど、それは叶わなかった。結果、カルーナがまたわたくしを殺そうと包丁を手にした事らしい。どうやら厨房(キッチン)から奪って隠し持っていたみたい。


 それを確認した死刑執行人の姿をしたクイル皇子は、彼女を剣で……。どんな世界になってもカルーナは、わたくしを殺そうとした。




「……なら、このお屋敷に住むしかないじゃない」

「ソフィ、不便はさせないし僕がずっと守り続ける。だから、信じてくれ」


「そうですね、もうちょっと快適にして戴ければ嬉しいですよ」

「おぉ、一緒に住んでくれるんだな」

「はい。クイル皇子はずっとわたくしを守ってくれていたんですよね。なら、あなたを信じますよ」


「ありがとう、ソフィ」

「いえ、お礼を言うのはわたくしの方――」



 その時、北の扉が開き……



 そこには手に包丁を持つ『カルーナ』の姿が。血塗れなのに、どうして……!



「話は全部聞かせて貰ったわ!! ソフィ、クイル皇子……わたしを、わたしを騙していたのねええええええええええええ!!!」



 酷く発狂するカルーナは、ブンブンと包丁を振り回し、物凄い形相と勢いで向かってきた。



「きゃあ!!」

「大丈夫、僕が守って見せる」




 そう叫ぶ皇子は、剣に炎を(まと)わせた。

 魔法の剣を持つクイル皇子は、向かってくるカルーナの包丁を剣で弾き飛ばす。けれども、それでもカルーナは強引に掻い潜り、わたくしの首を絞める。



「……く、くるしい」

「ソフィ、あんたをまた殺してやるわ!!」



 ぎゅうぎゅう必死に首を絞めてくるけど、わたくしだって黙って殺されるわけにはいかない。それに、彼女を許せなかった。



「……もう、あんたなんかに殺されてたまるものですか!!!」



 でも、どうにも出来ない……このままだとまた殺されて……。



 ……あ。



 ヴェルダンディちゃんがわたくしに『蝶々』の髪飾りを手渡してきた。これはあの手紙のイラスト。いや、今はそれよりも!



 わたくしはその髪飾りを使い、カルーナの顔面に押し込んだ。




「ギャアアアアアアアアアアアアア……!! いた、いたあああああああああああ…………!!」




 次の瞬間にはクイル皇子の炎の剣がカルーナの背中を斬った。




「ひっぎゃああああああああああああああああ……」




 バタリと倒れ、今度こそカルーナは絶命した。




「……はぁ、はぁ」


「ソフィ様! 良かった、生きていてくれて。まさか、カルーナが生きていたとは……申し訳ない。確かに致命傷を負わせたはずだったんだが……彼女の生命力は通常の人間よりも並外れたものだったのかもしれない」


「皇子、わたくし……」


「こんな風に言うのもアレかもしれないけど、これは、自ら運命に抗った証拠。これでもうカルーナは貴女を襲わないかもしれない。けれど、運命は常に残酷な選択を迫ってくるものだから……」



 そっか、やっぱりカルーナはわたくしを殺そうとするのね。なら、尚更もう外の世界には戻れない。また運命が変わるかもしれないというのなら、わたくしはこの世界を選ぶ。


「クイル皇子、わたくしは此処で暮らします」

「分かった。必ず君を幸せにしてみせるよ」




【1年後】




 あのカルーナの事件から1年。

 城塞『スクルド』に住み続け、不便のない日常を送っていた。クイル皇子からは溺愛され、妹のような存在のヴェルダンディちゃんと戯れる毎日。

 それと、美味しい料理を振舞ってくれる執事のジークムント。みんながいれば、わたくしはこれ以上は望まなかった。


 けれど、心は氷のように固まったままだった。針が動き出さない時計のように、そのまま凍り付いていた。



 ――でも、ある日。



「ソフィ、婚約を交わしてくれ」

「クイル様、良いのですか」

「良いも悪いもない。君じゃなきゃダメなんだ」

「……はい、こんなわたくしで良ければ」



 彼の炎によって、わたくしの心の氷が溶かされ、ついに時が進み始めた。ようやく本当の幸せを掴んだ――。

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