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氷の公爵令嬢と炎の皇子  作者: 桜井正宗


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死刑執行人

 暗闇の中に気配があった。

 それは不気味な物音を立て、こちらへ向かってくる。



「え……嘘。あの剣ってカルーナを殺した!?」



 つまり、そこにいるのは死刑執行人の男のようだ。男は静かに明かりをつけ、姿を現した。



『…………』



「や、やめて! 殺さないで!」


『……殺しはしない』


「え?」



 死刑執行人の男は顔を覆っていた黒い布を剥ぎ取ると、素顔を晒した。



「脅かして済まなかったね」

「あ、あなた……クイル皇子!?」


「ああ、僕がクイル皇子だ。この屋敷を作り、君たちを閉じ込めた張本人さ」


「どうしてこんな事を」

「全ては君の為さ、ソフィ」

「わたくしの、為?」

「そうとも、君は本当なら彼女に殺されていた」

「殺されて、いたって……」

「ああ、動揺するの無理はないだろう。そういう未来だったんだから」


「あの、意味が分かりませんが」



 クイル皇子は、ソファに座るジークムントを起こす。



「……クイル皇子! どうして! 計画は失敗ですか」

「いや、計画は成功だ。三日を待つ必要はなくなったのだよ」

「しかし……」

「良いんだ。ここは時の環から外れた隔絶された世界だからね、ソフィの運命を変えるにはこれしか方法がなかったんだ」



「わたくしの運命……」



「うん。ソフィ、君は幼馴染との婚約破棄後、カルーナに刺殺されてしまうんだよ。僕はその世界を何度も見て来た。その未来を変える為にこの城塞『スクルド』を作った」



 うそ、信じられない。

 わたくしはカルーナに殺される?

 その為にこの空間を作った?



「全部、わたくしを守る為と?」

「そうなんだ。カルーナを招待したのも償いを受けさせる為さ。僕が見て来た限り、彼女は君を三十回は殺しているからね」



 横で聞いていたジークムントが補足を入れる。



「――そういうわけなのです、ソフィ様。あなたを助けるには昨日の時間帯しかなかったのです。そこがターニングポイントとなっておりました」



 そのポイント以外でわたくしを救出しても、何であれ殺されてしまうらしい。だから、あの時しかなかったという。

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