お手紙
「すまない、ソフィ……婚約破棄してくれ。俺は君以上に愛する人が出来てしまった。それにね、平民である俺と公爵であるソフィでは釣り合わないよ」
「そんな……わたくしはそれでも貴方を愛していたのに」
幼馴染だった彼はわたくしの前から去った。彼はずっと身分を気にしていたようだけれど……どうして。
あれから半年後――。
今日も変わらない日常。
いつものようにお屋敷で過ごしていた。
気になるあの人からの反応もない。
「ソフィ様、今日も皇子から返事がありませんでしたね」
「そうね、エヴァ。あの方は人気があるから」
メイドのエヴァは、わたくしの身の世話だけでなく、こうして恋の相談にも乗ってくれていた。今日も進展がなくて、二人して溜息をついていた。
「諦めずに頑張って下さい。では、私は仕事に戻りますので」
「ええ、分かったわ」
この帝国の皇子・クイルは絶大な人気があった。いわゆる眉目秀麗であり、甘そうなクリーム色の髪と、彼岸花のような赤い瞳が特徴だった。
故にあらゆる女性から慕われているのだけど、わたくしは一歩先を行っていた。彼の内面をよく理解しているし、孤児院に支援している事も知っていた。
彼は優しいって事を誰よりも理解していた。
だから、そんなクイル様を好きになってしまっていたのだけど――中々お近づきになれないでいた。彼の周りには女性が多すぎる。きっと、わたくしの事も眼中にはないのかもしれない……。
「――あら」
ふと視線を机の方に向けると、そこには手紙があった。さっきまでは無かったと思うのだけれど――もしかして、エヴァが置いていってくれたのかしら。
わたくしはその手紙の差出人を確認する。
「名前がありませんわね」
差出人不明。
となると、これはいったい。
開封してみるとメッセージカードが入っていた。そこには『迎えに行く』とだけ書かれていた。
たったこれだけ?
それに、迎えに行くって何でしょう。
いったい誰がわたくしに。
単なる悪戯なのかな。それならそれでいいのだけれど……アレ、このカードの裏面にイラストのようなモノが。
「蝶々……?」
――その直後。
視界が真っ暗になり、
わたくしは意識を失った。