8-10 クロノの夢
8ー10 クロノの夢
その日の夕刻には、俺とその一党は、王都を離れた。
じいちゃんの命令だった。
「今回の亡霊事件は、私がなんとかしよう。その間、お前たちは、この国を離れていた方がいい」
じいちゃんは、俺に言った。
俺は、すぐにハインリヒたちを走らせてクロノ、キティたちに出発が急遽早まったことを伝えた。
昼過ぎには、クロノとキティが屋敷へとやってきた。
そして、アンナ先生とリューイ先生も。
俺たちは、うちの馬車に乗り込むとサザンスクの空船の港を目指した。
夕闇迫る頃、俺たちは、サザンスクの港についた。
「元気そうでなによりだ、メリッサ」
俺たちを出迎えてくれたルーラが微笑んだ。
「それにたくさんの学友ができたこと、喜ばしいことだ」
「うん」
俺たちは、ルーラの案内でガーランド公国の所有する空船へと乗り込んだ。
キティとクロノたちは、初めての空船におっかなびっくりしている。
「これが、ほんとに空を飛ぶんですか?メリッサ様」
「メリッサでいいよ、キティ。クロノもな」
俺は、2人に俺を名前で呼ぶように、と命じたのだった。
だってさ、友達なのに、いつまでもガーランド様って、変だろ?
「じゃ、じゃあ、メリッサ・・さん」
キティは、消え入りそうな声で言ってから、顔をあげてキラキラした目で俺を見た。
「この船の魔法回路を見せてもらえませんか?」
「魔法回路?」
俺は、ルーラに見せてもらえないか訊ねた。
ルーラは、俺たちの頼みを快く引き受けると、この船の心臓部である魔法回路へとキティを案内してくれることになった。
「はい、はい!俺もお願いします!」
リオンが手をあげて言った。ルーラは、頷いた。
「いいだろう。ついてきなさい、2人とも」
ルーラとキティたちが部屋から出ていくと俺とクロとアル兄とクロノの4人は、広いリビングルームで黙り込んでいた。
ナノだけが、はしゃいで部屋の中をうろうろしてあっちこちをくんくんと嗅いでいた。
なんか。
緊迫してない?
俺は、ナノをなでなでしながら溜め息をついた。
俺は、ナノを抱き上げると、ちょっと離れた床の上に座り込んで何かを熱心に書き込んでいるクロノに話しかけた。
「クロノ、さっきから何やってるの?」
「はい」
クロノは、顔をあげてにっこりと笑った。
「新しいポーションの製造行程を考えていたんです」
「新しいポーション?」
「はい」
クロノは、いつになく力強く言った。
「今あるポーションは、ちょっとした傷の手当てや病気には、効きますが重い症状の人には効きません。俺は、いつか、思い病の人や、重度の傷害を受けた人のことも癒せるポーションを作りたいんです」