7-9 フェンリル
7ー9 フェンリル
しばらく俺たちは、無言で暗闇の中を歩いていた。
20分ばかりたった頃のことだった。
奥から、先に入っていった他のクラスの連中が偉い勢いで走り去っていった。
「な、なんだ?」
俺たちは、隅にのいて走り去る人々のことを見守っていたが、誰も立ち止まる者はなかった。
最後に走ってきた女の子を捕まえると、リオンが訊ねた。
「何があったの?」
「ま、魔物が!早く逃げないと」
その子は、リオンの手を振り払って走り出した。
リオンは、あはっと笑った。
「女の子にふられるなんて新鮮だなぁ」
「ちょっと待て!」
俺は、アル兄とクロの手を離すと叫んだ。
「魔物は、いないんじゃないのかよ!」
俺は、手をかざして生活魔法で明かりを灯すとダンジョンの奥を照らし出した。
奥から、低い獣の唸り声が聞こえてくる。
マジかよ?
俺は、身構えた。
巨大な影が光の照らす中へと現れた。
「フェンリル?」
アル兄とクロが俺をかばって前に出た。
「大丈夫、だ。メルは、僕が守る」
「メリッサ!俺が守ってやる!」
だけど。
俺は、その巨大な魔物の様子がどこかおかしいことに気づいた。
あれ?
なんか、この魔物、泣いてる?
よく見ると前足を少し引きずっているようだった。
こいつ、もしかして・・
「クロノ!」
俺が呼ぶとクロノが怯えるような返事をした。
「は、はいぃぃっ!」
「お前、あの軟膏持ってきてるか?」
俺がきくとクロノは、驚いたような表情で俺を見た。
「持ってきてるけど・・」
「貸してくれ」
俺は、クロノに手を差し出した。クロノは、訝しげに俺に軟膏の入った入れ物を渡した。
俺は、クロとアル兄を押し退けて前に出ると、魔物に呼び掛けた。
「もう、大丈夫だ。落ち着いて」
「ぐるるるる」
唸り声をあげるフェンリルは、俺に飛びかかってきた。
「「メリッサ!!」」
アル兄とクロが叫んだ。
俺は、両手を広げてそのフェンリルを招いた。
女神の加護、発動!
俺は、フェンリルに魅了の力を振り撒いた。
「ガルルル」
フェンリルが俺の肩に噛みついた。
「「メリッサっ!!!」」