6-1 ダニン
6ー1 ダニン
「クロ、早くしろよ!」
俺は、ハインリヒたちが見守る中、馬車へと乗り込んだ。
クロは、大儀そうに俺の後に続いた。
「なんで、俺まで」
「俺だって、お前と一緒なんて嫌なんだからな!」
俺は、走り出した馬車の中から1年ぶりの王都の町並みを見ていた。
イーゼル王国の王都クロイチェルは、相変わらずせかせかしていて嫌な感じだったけど、今の俺にとっては、そんなこと些細なことに過ぎなかった。
もう少しでアル兄に会える!
俺は、はやる心を押さえきれなかった。
「本当に、メリッサ様は、アルム様のことが大好きなんですね」
俺の隣に座っているメイド服姿の黒髪のおかっぱ少女サイが言ったので、俺は、微笑んだ。
「当たり前だ。アル兄は、俺のただ1人の兄であり、親友でもあるんだからな」
「そして、すごく頭がよくって商才にたけている、でしたっけ?」
サイがくすりと笑った。
「メリッサ様のアルム様自慢は、もう聞き飽きました。今回、やっとご本人にお会いできるのだと思うと、私まで心が弾みます」
俺がルーラに連れられてガーランド公国に来てから、すでに1年が過ぎていた。
空船でガーランド公国の港町であるクリムゾンに到着した俺たちは、そこから一路ガーランド公国の首都であるダニンへと連れていかれた。
そのときは、冬で、北方にあるガーランド公国は一面の雪に包まれていた。
俺は、なんだか、寒々しいその風景に凍えるような思いがしていた。
ダニンは、山岳の街だ。
大きな岩山の周囲に段々畑のように街が拡がっていた。
俺たちは、王族専用のロープウェイのような物へと乗り込んでその岩山の頂を目指した。
それは、信じられないぐらい美しい光景だった。
折り重なって広がっている街並みに、縦横無尽に張り巡らされたロープウェイが行き交っている。
その中を白い雪が舞っていた。
「このダニンは、天空の都市とも呼ばれている世界一美しい街だ」
ルーラが俺とクロに話した。
「この切り立った崖に広がる街並みは、他に比類ないものだ」
俺たちは、そのまま岩山の頂上まで運ばれていった。
ロープウェイの山頂の駅には、地竜に引かれた橇が待っていた。
美しい銀細工を施された橇に乗り込むと巨大な竜が走り出した。
「これからアルトラル王城へと向かいそこの主で現公国の女王であるあなたのお婆様、トゥレッド様に謁見することになる」
ルーラは、俺に言った。
「トゥレッド様は、聡く、心の広いお方だ。そして、10年前に行方不明になったあなたを生きていると信じて探し続けられた方でもある」