5-8 俺の懊悩とクロの思惑
5ー8 俺の懊悩とクロの思惑
「マジで、もう帰れないのかな、クロ」
俺は、与えられた部屋のベッドの上で丸まっているクロにもたれて溜め息をついた。
クロは、片目を開けて俺の方をちらりとうかがってから答えた。
「さあな」
「お前は、みんなのところに帰れなくなること、平気なのかよ?」
俺は、もふっ、とクロの背に埋もれながらきいた。
クロは、嫌な奴だけどこのもふもふ感は、最高だ。
クロは、俺の話に興味なさげにアクビをした。
「俺は、お前をアルムの奴から引き離せて嬉しいけどな」
「はい?」
俺は、クロの態度にムカッとしてクロの背中の毛を両手で突かんでむしりながら叫んだ。
「何!言って!お前、ほんとに嫌な奴!」
「痛い!やめっ!メリッサ!」
クロがごろんと転がって俺の体を前足で引き離そうとした。
黒い肉球で俺の体をぷにっと押しながらクロは言った。
「お前がどうであれ、アルムの奴は、お前に惚れてたからな」
「冗談だろ?」
俺は、クロの腹にもふん、と全身を埋めてクロの匂いを胸に吸い込んだ。
太陽の匂いがする。
クロが俺を前足で抱き寄せる。
「俺だけじゃ不満なのか?メリッサ」
「当たり前だ!」
俺は、クロに言うと、クロの手から逃れようともがいた。クロは、俺を肉球で押さえつけて抱き締めたままきいた。
「なんでだよ?」
「決まってる!」
俺は、クロのいい香りのする和毛に抱かれながら答えた。
「アル兄と俺は、これから2人で世界を変えていく予定だったんだからな!」
アル兄は、俺の最高のビジネスパートナーだ。
俺たち2人ならこの世界に革命を起こせる筈だった。
「『アルとメル商会』は、これからの会社なんだよ!とにかく、アル兄の代わりはいないんだ!」
「ふん」
クロは、俺を離すとぷぃっと横を向いてしまった。
そのとき、 誰かが部屋のドアをノックする音が聞こえた。
誰だろ?
ドアの側に立っていた黒髪をおかっぱにした小柄でかわいいメイドさんがドアを開けた。
「メリッサ様、クロ殿」
そこには、あの3人の男たちが立っていた。