5-2 会敵しました。
5ー2 会敵しました。
そうして1ヵ月が過ぎた。
「見えたぞ!空船が来た!」
岩山の上で見張っていたクロとハインリヒが戻ってきた。
クロは、ハインリヒを降ろすとすごく嫌そうな顔をした。
「俺は、メリッサしか乗せないと固く誓っていたのに」
「いいじゃないか、クロ。減るもんじゃなし」
俺は、クロをナデナデしてやった。
クロは、喉を鳴らして俺にすり寄った。
「しかし、その格好」
クロは、俺の姿をじっと見つめて言った。
「俺はいいけど、他の奴に見せるのは、なんか、けしからんな」
俺 は、クロの着ていた白いシャツを生活魔法で洗浄して羽織って、腰に蔓を巻いて木刀を下げていた。
うん。
ちょっと、ミニスカートっぽいかな?
俺のすらっと伸びた白い長い足が扇情的かもしれないけど、仕方ない。
だって、俺が着ていた夜会用のドレスは、もうボロボロだったからな。
けっこう動きやすいし、俺は、気に入っていた。
俺は、クロと俺の回りに集まってきたハインリヒたちに向かって言った。
「そんじゃ、行くぞ!みんな!」
「「「おうっ!!」」」
俺たちは、手に手にこん棒やら丸太やら、木刀やらを持ち船の停船する浜辺の岩場に身を隠した。
しばらくして空船が近づいてくるのか見えてきた。
俺たちは、息を殺して待っていた。
やがて、空船は停船したが、なんだかざわざわしている。
まあ、無理もないか。
今まで死の島といわれていたこの島が緑溢れる豊かな島に変化しているのだからさぞかし驚いていることだろう。
船から階段が下ろされ、数人の兵士と共に1人の軍服姿の女が降りてきた。
「あっ!」
俺とクロは、顔を見合わせた。
あの夜の女だ!
長い美しい黒髪に赤い瞳の迫力美女だ!
彼らは、船の回りを見回していた。
辺りは、岩場だった場所が、緑の繁る草原に変化していた。
所々に綺麗な色とりどりの花も咲いていた。
ハインリヒたちが 俺たちの方を伺うように見ている。
俺は、躊躇していた。
あの女は、クロでさえ振り切るのがやっとだったという強敵だ。
俺たちが全員でかかっても勝てるかどうかわからない。
でも。
今の俺なら。
俺は、そう思って立ち上がろうとしたが、クロが俺を押し止めた。
「あの女は、俺がやる」
マジで?
俺は、クロを振り返った。
クロが牙を剥き出してぐるるっ、と低く唸り声をあげたかと思おうといきなり飛び出していった。
「クロ!」
クロは、女に飛びかかった。
だが、女は、クロを見上げることもなく片手をクロへと突き出した。
「止まれ」
空中に障壁が現れてクロが跳ね返される。
いや、違う!
あの女は、クロの攻撃を防いだだけじゃなかった。
「ぐぅっ!」
クロが呻いた。
クロの体を見たことのない魔方陣が捕らえて動きを封じていた。
「何をしたっ!」
「少し、黙ってくれ、子猫ちゃん」
女のハスキーな声が聞こえた。
「私は、お前ではなくお前の飼い主に用があってきたのだ」
ええっ?
俺は、驚いてはっと息を飲んだ。
なんであの女が俺に?




