4-7 島の記憶
4ー7 島の記憶
「そうか・・」
ラニの表情が曇った。
「君も僕を必要としない人間なんだ・・」
「ええっ?」
俺は、慌てて言った。
「俺、あんたのことが必要だよ。たぶん、ここで生き抜くのにラニの力が必要だし」
「ほんとに?」
「うん」
俺は、頷いた。
「ラニは、俺にとって必要な存在だよ」
「そうなんだ」
ラニが俺に笑いかけた。
「僕、ここにいてもいいんだね?」
「・・ぅん・・」
俺は、ゆっくりと目を開いた。
うん。
もふもふの柔らかい、暖かな毛布のようなクロの毛に包まれて、俺は、眠っていた様だ。
「起きたか?メリッサ」
「うん・・」
俺は、クロから体を離そうとしてもごもごしていた。
ぐぅー
俺のお腹が鳴った。
「腹すいたのか?」
「うん」
「パンしかない」
あー。
クロの言葉に、俺は、宇宙の果てまでひいていた。
あの、カビカビパンか。
「いらない」
「でも、他に食い物はないんだぞ」
「俺を、どこか・・地面の上に連れてってくれ、クロ」
俺が言うとクロがガゥッと怒ったように呻いた。
「やめておく方がいい。あの連中がまだ生きてる」
「だから、だよ」
俺は、クロに言った。
「俺たちは、みんなで生きて帰るんだ」
「はい?」
クロが呆れたように口を開けて俺を見た。
「なんか、おかしなものを食ったのか?なんだか知らんが、俺は、手を貸さないぞ」
「マジか」
俺は、崖を見下ろす洞窟の縁にいき下を覗いた。
うん。
こういうの火サスで見たことがあるな。
すごい高さだし、下には、逆巻く波が打ち寄せている。
これは、落ちたら確実に死ぬパターンだ。
俺は、なんとか空を飛ぶ方法を考えた。
俺の空想辞典がパラパラっと開く。
鳥の姿をした人間やら、羽を持った妖精の姿やらが現れては消えていく。
何がいい?
翼。
俺が飛べる、大きくて強い翼があれば。
俺は、目を閉じて思った。
翼が欲しい。
「メリッサ?」
俺の背に光の粒子が集束していき、大きな白い翼が形作られていく。
それも何枚も。
全部で6枚の翼が俺の背に現れる。
「いくぞ、クロ!」
「ま、待て、メリッサ!」
俺は、翼を広げて崖から飛びたった。
翼は、生まれたときから俺の背にあったかのように力強く羽ばたき、俺の体を風にのせてくれた。
俺、飛んでる!
空を!
飛んでるんだ!
「待て!」
クロが慌てて俺の後を追って駆け出した。
俺は、空中でホバリングしてクロを振り向いた。
「遅いぞ!クロ」
俺たちは、島の中心にある大きな岩山を目指した。
そこに降り立つと、俺の背中の翼は、ふわっと風のように消えていった。
俺は、そこから島を見回した。
腐った大地の臭い。
見える限り、岩と黒っぽい腐敗した大地しか見えなかった。
俺は、岩山の上でひざまづき、そっと岩肌に触れた。
ああ。
この島の記憶が俺の中に流れ込んでくる。
ここは、捨てられた島。
だが、ここにもかつては、人々が生きて、暮らしていた頃があった。
なんで、こんなことになったのか?
1人の術者の姿が見える。
若い男だ。
彼が造り出した魔導具がすべての原因だった。
その魔導具の名は、『賢者の石』
彼は、それを外界から守ろうとした。
その結果がこれだ。
この島は、滅んだ。
滅ぼされたのだ。
あれは・・
アトラス?
髪の色も、目の色も違うけど、間違いなく彼だった。
彼は、この島が滅ぼされた後も、ここに留まった。
自分が造り出したものを守るために。
ただ1人で。
「もう、いいんだ」
俺は、呟いた。
「もう、ここに縛られることはない」