4-5 クロの匂い
4ー5 クロの匂い
目を開くと、そこは、あの崖の中腹にある洞窟の入り口に俺は、いた。
「あれ?」
俺は、回りを見渡したが、もうどこにもあの男の姿はなかった。
洞窟の奥へと続く道もなくなっていた。
「マジかよ・・」
俺は、自分の手に握られた物を見た。
俺の掌には、青い石が握られていた。
「夢じゃなかったのかよ」
俺が呟いたとき、石が再び輝きだした。
その光は、俺を包み込み、俺と光は、1つに解け合っていった。
そして。
「大丈夫か?」
俺が目を開けると、そこには、心配そうに俺を覗き込むクロの姿があった。
「クロ・・?」
「しっかりしろ!メリッサ」
クロは、俺にカバンの中から取り出した水筒を渡した。
「少し飲んだ方がいい。ゆっくり、とな」
「ん・・」
俺は、ごくごくと水をあおった。クロが慌てて止める。
「こら!そんないっぺんに飲んじゃ、だめだ!」
俺は、かまわず、その水を飲み干した。
クロは、一滴も残らない水筒を見つめて、呆れた様に言った。
「バカだ、バカだと思っていたが、ここまでバカだったとは」
「大丈夫、だよ」
俺は、口許を手の甲で拭うと、クロに言った。
「何があっても、俺は、ここで1ヶ月無事に生き延びられるから」
「何を根拠に」
クロが言うので、俺は、にやっと笑った。
「これからは、俺のターンだ!」
「はい?」
俺は、クロに向かって両手の平を差し出した。そこから水が溢れ出す。
「生活魔法、か?」
クロが聞いたので、俺は、頷いた。
「クロ、水を水筒に入れて」
「ああ」
クロは、水筒に俺の掌から溢れて流れ出す水を水筒に入れると、今度は、俺の手首を掴まえて俺の手から直接水を飲み出した。
うん。
クロだって喉が乾いてたんだよな。
仕方ないか。
クロは、水をたっぷりと飲んでから俺の掌から口を離し、口許を拭った。
「お前、生活魔法なんて使えたんだな。今まで見たことがなかったけど」
クロが言ったので、俺は、答えた。
「今まで必要じゃなかったからな」
「まあな」
クロは、頷くと言った。
「でも、助かった。この島には、水もないし、ペンペン草も生えてない」
「マジか」
俺は、クロの言葉をきいて、ふと思い出して訊ねた。
「他の連中は?」
「あの連中なら、もう、決着はついたらしい」
クロは、吐き捨てるように言った。
「さっき、俺が見たときは、もう、最後の2、3人しか残っていなかったな」
「そうか」
俺は、クロにきいた。
「残ってる奴等と話ができるかな?」
「なんだって?」
黒が信じられないというように俺を見た。
「なんのために、連中と何の話をするつもりだ?」
「いや、なんのってことはないけど」
俺は、言った。
「いつまでもここにいるわけにはいかないし」
「どこに行くんだよ?」
クロが怒ったように言う。
「この島のどこにも、ここよりましなとこはないんだぞ」
「そうか?」
俺は、あくびをした。
なんだろう。
疲れた・・
「メリッサ?」
「・・うん・・」
俺は、クロにもたれると呟いた。
「なんか・・眠い・・」
「無理するな。眠れ、メリッサ」
クロが俺を抱いて囁いたので、俺は、最後の力で言った。
「俺が眠ったからって・・いたづら、したら、許さないから、な・・」
「誰が、いたづらなんかするんだよ!」
クロの声が遠くなっていく。
クロが、俺を抱いて、優しく髪を撫でるのがわかった。
クロ。
前にも、こんなことがあったような気がするな。
ずっと、ずっと、前。
俺は、クロの匂いに安心して眠りについた。