1-2 通夜の客たち
１ー２ 通夜の客たち
「死因は事故死ですが、ほとんど過労死といっていいと思います」
会社の後輩の妹系女子の華ちゃんが号泣しながら、俺の家族に言うのを俺は、少し離れた場所から見ていた。
それは、俺の通夜のことだった。
華ちゃんは、泣きながら俺の家族に頭を下げた。
「わたしが悪いんです。幸盛先輩がいつもかばってくれるのをいいことに先輩に仕事を丸投げしてしまって」
華ちゃんは、俺のお袋と親父の前で気の毒なぐらい頭を下げ続けていた。
「あの日も、わたし、幸盛先輩に甘えて、先に帰らせてもらって。だから、先輩、１人で、残業してたんです」
俺は、そっと華ちゃんの背に手を置いて呟いた。
「「気にするなよ、そんなこと」」
はい？
俺は、顔をあげて、俺とシンクロした声の主の方を見た。
親父だ。
「いや、気にせんでいいから、本当に。あいつも大人だったんだし、すべては、あいつの責任だから」
なんですと？
俺は、信じられないものを見るように親父を見た。
うん。
昔から若くて綺麗な女に弱かったが、まさか、息子よりもそっちをとるとは。
「そうよ。気にしないで、華さん。あの子も、ぼんやりしてたんだから。あなたは、全然悪くないわ」
お袋が、華ちゃんの手をとって言った。
「あなたは、あんな子のことは早く忘れて幸せになってくれたらいいのよ」
って、何、いってんだよ、お袋！
別に、俺と華ちゃんは、そんな仲では。
「お母様・・」
華ちゃんがお袋を濡れた瞳で見つめた。
お袋は、にっこりと優しく微笑むと頷いた。
「ええ、みんな、生きてるものは、未来があるんですからね」
そうだけど！
俺は、歯をくいしばって、お袋たちを見つめていた。
それは、そうかもしれないけどさ！
今日ぐらい、俺のことをもっと大事にしてくれよ！
華ちゃんが帰って、お袋と親父だけが残った。
「ああ、ほんとに死んじゃったのね、幸盛」
お袋が呟くように言った。
「本当に・・こんないいタイミングで死ぬなんて、あの子は、ほんとに親孝行な子だわ」
「ああ」
親父が俺の横たわっている棺桶の前で胡座をかいて言った。
「うちの工場もこの不景気で倒産するところだった。それをあいつの保険金で借金が返せるんだ。ほんとに、親孝行な奴だ」
マジですか？
俺は、あんぐりと口を開けて２人を見つめていた。
お袋がハンカチで涙を拭った。
「あの子は、いつも手のかからないいい子だったから、きっと、うちの窮状に気づいてたのかも」
「そうだな。ほんとに、いい息子だった」
２人は、しんみりとうつ向いた。
俺は、溜め息をついた。
「ひどい、両親だ」
その声に俺が振り向くと、そこには、黒い猫のぬいぐるみの頭部に、ムキムキの筋肉をしたランニングに短パン姿の男が立っていた。
「君は、もっと怒ってもいいんじゃないか？」
「あんた、誰だよ？」
「これは、失礼。私は、この地区を担当している死神の猫頭というものです」
そのぬいぐるみの頭部をしたボディビルダーは、名刺をだして俺に差し出した。
名刺には、『死神 猫頭』とだけ書かれていた。
