3-10 夜風に吹かれて
3ー10 夜風に吹かれて
その日の王城は、いつにも増してすごい人出で、俺は、人混みに酔ってすっかり気分が悪くなっていた。
パーティーは、順調に進み、ダンスが始まっていたけど、俺は、そっと部屋を抜け出すとベランダで夜風に吹かれていた。
星が綺麗だった。
王都で見る星空も、コンラッドの村で見る夜空も変わらず美しい。
俺は、ほうっと息をついていた。
「こんなところで若いお嬢さんが1人で過ごされているとは、不用心だな」
不意に話しかけられて、俺は、後ろを振り向いた。
そこには、見かけない軍服を着た年増だがボンキュッボンのゴージャスな美女かたたずんでいた。
黒髪に、赤い瞳。
「あの・・少し、気分が悪くって・・」
俺がぼそぼそとその女の人に言うと、その人は、俺に近づいてきてそっと俺の肩に手を触れてきた。
「大丈夫か?人混みで酔ったのか?」
「だ、大丈夫、です。少し、休んでいれば」
俺が答えると、その人は、赤い燃えるような瞳で俺のことをじっと見つめた。
その強い眼差しに、俺は、思わず目をそらした。
「かわいいな」
その人は、くすっと笑っていった。
「初めて見る顔だな。もしかして、噂のシュトラス候の隠された姫君、か?」
はい?
俺は、目をパチクリしていた。
俺、世間ではそんな風に言われてるの?
そのとき、クロが現れて俺の名を呼んだ。
「メリッサ!ワルツの時間だ」
「マジか!」
俺は、言ってからしまった、と口許を押さえた。
この人の前でそんな言葉使いをしてしまたことを恥じた。
俺がちらりと見上げると、その人は、くっくっと笑っていた。
「迎えが来たようだし、もう、行かれた方がいい」
俺は、頷くとクロの方へと駆け寄っていった。
「クロ!」
俺は、そっとクロにきいた。
「あれ、誰?」
クロが噛みつくように俺に言った。
「知らん。あんなのが好みなのか?メリッサ」
「いや、そういうのじゃないんだけど」
俺は、クロに答えた。
「だた、さ。すごい、美人だと思って」
なんというか。
母様みたいな優しい人とは違うタイプの美人だったな。
俺がぼんやりと考えていると、目の前にシュナイツが歩み寄って来るのが見えた。
やれやれ。
俺は、すっと手を差し出した。
だが。
シュナイツは、俺の手をとらなかった。