3-8 どいつも、こいつも!
3ー8 どいつも、こいつも!
俺は、嬉しくって思わずアル兄に飛び付いた。
「やったぁ!アル兄と一緒に学校へ行けるんだ!」
「や、やめないか、メリッサ!」
アル兄は、頬をピンク色に染めて俺から目をそらした。
「もう、僕たちは、子供じゃないんだからね。人前で抱きついたりしちゃダメだ」
「ええっ?」
俺は、アル兄に言われて、きょとん、としてしまった。
なんで?
急に、アル兄は、そんなことを・・
俺は、不意にピンと閃いた。
「なるほど」
俺は、アル兄ににやりと笑いかけた。
「まだ見ぬ婚約者のフローレンス嬢のことか」
「はぁ?」
今度は、アル兄がきょとん、とした。
アル兄には、10才の頃に決められた婚約者がいた。
名前は、フローレンス・スミソン。
貴族とはいえ、名ばかりのうちとは違い、本物の伯爵令嬢であるフローレンスは、幼い頃から修道院に預けられていたため、まだ、アル兄にも俺たち家族にも会ったことがなかった。
そのフローレンスも来年の魔法学園への進学のために王都へと戻ってきているのだという。
唐変木だとばかり思っていたけど、そこは、しっかり成長してたんだ、と俺は、感慨深く思っていた。
そうか。
シスコンとか、あらぬ噂を流されてフローレンス嬢に嫌われたくない、というわけだ。
俺は、にやにや笑いが止まらなかった。
「大丈夫、だよ、アル兄。アル兄を振るような女の子はこの世にいないから」
「おま・・そんなんじゃ・・」
「とぼけるなって」
俺がにっこりと笑うと、アル兄は、慌てて言った。
「ほんとに、誤解だから!」
俺は、夕食後、部屋へと戻ってベッドの上にだらしなく猫の姿になって伸びているクロに向かって言った。
「いや、ほんと、子供が大きくなるって早いもんだな」
「ああ?」
クロが片目を開けて俺を見た。
「何、ガキが偉そうに言ってるんだか」
「俺は、ガキじゃねぇし」
俺は、言った。
「それは、お前が1番よく知ってるじゃないか」
「知っているが」
クロは、興味なさげに大きな欠伸をした。
「今のお前は、どう見ても、ガキんちょじゃねぇか」
「それは、そうだけど」
俺は、ふん、とそっぽを向いた。
「へ理屈捏ねてる場合じゃねぇし。何しろ、アル兄に恋ばなだかんな」
「アルに恋ばな、だって?」
クロがむくっと上半身を起こした。
「それは、面白そうだな」
「だろ?」
俺は、クロにアル兄のさっきの話をしてやった。クロは、しょうもないと言わんばかりに大あくびをした。
「そんなことか」
「なんだよ、そんなことって」
クロは、深い溜め息をついた。
「俺は、アルムに同情する」
「はぁ?同情って、なんだよ?」
俺がきくと、クロは、再びベッドの上に寝そべった。
「自分で考えろ!唐変木め」
「誰が、唐変木、だ!」
俺は、むっとして言った。
クロは、横たえたまま、また片目だけ開けると、俺をちらっと見た。
「まったく、ガキだな。早く寝ろよ、お子さまは」
「誰が、お子さま、だ!」
声を荒げる俺を無視して、クロは、目を閉じて呟いた。
「はやく、大人になってくれよな、メリッサ」
俺は、ますますムカッとしていた。
なんだよ!
どいつも、こいつも!