3-6 じいちゃん
3ー6 じいちゃん
俺たちが王都に来た翌日の昼過ぎのことだった。
俺は、母様とアル兄と一緒にそのお屋敷の広い舞踏室でダンスの練習をしていた。
舞踏室は、この世界では貴重なガラスを使った天井からキラキラと陽の光が差し込む美しい部屋だった。
母様は、舞踏室にある凝った飾り細工のされた白いピアノでワルツを弾いてくれていたが、それは何度も中断されていた。
というのも、俺がどうしてもアル兄の足を踏んでしまうため、その度に、演奏は中断されるのだった。
このために、母様は、俺に特別レッスンが必要だと判断したのだ。
母様は、シュナイツの足先を俺から守るために、俺にもう一度、ダンスの基礎から教え直さねばならないと思い立ったのだった。
俺は、母様の弾くピアノにあわせてアル兄とワルツを踊った。
シュナイツの誕生会の最後に、どうしても婚約者である俺とシュナイツがワルツを踊らなくはならないという習わしがあったからだった。
「ワン、ツー・・痛っ!」
「あっ!ごめん、兄さん」
「平気だよ、メル。もう一度、やってみよう。ワン、ツー、イタっ!」
「アル兄、ごめん!ほんとに、わざとじゃないんだよ」
俺は、踞って足先を押さえているアル兄の横で頭を掻いていた。
母様が溜め息をついた。
「これでは、シュナイツ様の足先を守るために鋼の板を入れた特性の靴を用意した方がいいのかもしれないわね」
俺とアル兄は、マジで母様の言葉に頷いた。
あんな奴でも、一応、飛竜騎士団の副団長だからな。
2度と竜に騎乗できないようなことになっては不味い。
「なんだって?まさか、私のかわいいレディは、ワルツが踊れないっていうのかね?」
声の方を振り向いて俺とアル兄は、歓声をあげた。
「トールじいちゃん!」
「お祖父様!」
俺たちは、背の高いじいちゃんに飛び付いた。じいちゃんは、俺たちをよろめきながらも受け止めると、笑い声をあげた。
「久しぶりだな、2人とも。ずいぶんと大きくなったな」
「当たり前だよ、じいちゃん。この前会ってから何年たつと思ってるんだよ!」
俺は、じいちゃんを咎めるように言った。
じいちゃんは、申し訳なさげに言った。
「すまんな、この爺ぃにこの国の連中は、まだ、働けというんだよ」
じいちゃんは、この国の魔導師団の団長だった。
この国は、いつも何処かの国と戦争をしているのだ。
戦乱の世であるといってもいいこの世界では、仕方のないことかもしれないが、俺は、じいちゃんのことが心配だった。
だって、もう、じいちゃんは、67才だった。
この世界の平均寿命がいくつかは知らないが、たぶん、そんなに高くはない筈だった。




