18-9 帰ってきた!
18ー9 帰ってきた!
俺は、まどろっこしくって、またイライラしてきていた。
「ここに、確かにいるんだよ!あれが、その、あいつが!」
「あいつ?」
ああ。
俺は、溜め息をついた。
もう、たった1度でいい。
会いたい。
会いたい。
ふわっと俺の鼻孔に快い花のような甘い香りが感じられた。
猫頭が眉をひそめる。
「なんで、あなたがここに?」
「この子は、私の愛し子です。私の加護のもとに生を受けたのですからね」
その美しい声は、俺を包み込んでくれた。
「この子を守ることは、私の義務でしょう?」
姿のないその声の主は、俺をその腕に抱いて囁いた。
「怯えないで、その名を呼ぶのです、メリッサ」
「名前、を?」
「ええ」
声の主は、俺を鼓舞した。
「心の思うままに」
「 !」
俺は、自然と口から出た言葉に驚いた。
なんで、忘れていたんだ?
あの、くそ生意気な奴のことを。
俺をいつも、というか、時々守ってくれたあいつのことを。
「クロ!」
ぎゅぃん、と目の前の風景が歪んでいく。
流れていく。
俺の目の前に、今までの光景、全ての思い出が溢れだし、中に入り込んでくる。
そうだ!
俺は、メリッサ。
メリッサ、だ。
それ以上でも、それ以下でもない。
俺は。
俺は、この世界に確かに存在しているんだ。
「メリッサ!」
目を開くとクロの心配そうな顔が見えた。
俺は、思わず、クロに抱きついた。
ああ。
クロの匂い。
懐かしい。
優しさの記憶。
「メリッサ、無事か?」
アル兄たちが俺を覗き込んでくる。
俺は、すぐにクロを突き放すと、アル兄に向き直った。
「どうなっちゃったの?」
「わからない」
アル兄が答えた。
「この第9階層に入ったとたんに、メリッサ、お前は、倒れたんだ。心臓が止まっていたんだぞ!それをラクアスが回復魔法でなんとか留めていたんだ。大丈夫なのか?」
「・・ああ」
俺は、吐息をついた。
不覚だった。
いくら、不意をつかれたとはいえ、こんなことあり得ない。
俺は、かぁっと頬が火照ってくるのを感じていた。
こんなの、まるで、俺が、俺が・・
「気がついたようだな」
俺は、アル兄の背後にたたずんでいる見知らぬ青みがかった銀髪の男に目を止めた。
その男は、俺に懐かしげに目を細めて微笑んだ。
「ずいぶん、寝覚めがよさそうだな」
「な、な・・」
俺は、慌てて何か男に投げ掛ける言葉を探したけれど、何も出てこなくって。
そんな俺に男は、言った。
「若いな」
「だ、誰が!」
「そんなことより」
男は、俺たちを見つめた。
「いいのか?ダンジョンが崩れるぞ」
はい?
俺は、低い地響きを感じていた。
「なんで?まだ、何もしてないのに?」