18-7 誰なんだ?
18ー7 誰なんだ?
「メリッサ!帰ってこい!」
ええっ?
俺は、驚いて顔をあげた。
誰かが俺の体を掴んで引き上げようとするのを感じた。
誰?
俺を連れ去ろうとしているのは、誰だ?
この安寧の中から、俺を連れ出そうとしているのは。
誰だ?
俺は、その誰かの腕に抱かれていた。
暖かい。
失ったもの、記憶、全てをあわせても余りあるぐらいの温もりだった。
「ぷぁっ!」
俺は、水面へと浮かび上がった。
そこは、川の岸辺で。
ただ、何もない。
荒野。
見果てぬばかりの荒野が広がっていた。
ここは?
「ここは、忘却の川の岸辺だよ、幸盛。いや、今は、メリッサ、か」
俺は、声の方を振り向いた。
そこには、頭部が猫のムキムキの筋肉を見せつけた男が立っていた。
「やあ。久しぶりだね」
「俺は、お前なんか、知らない」
俺は、そう呟きつつも、猫頭に歩み寄っていくとその男の体に腕を回して抱き締めた。
暖かい。
俺の体は、冷えきっていて、その男の体は、とても暖かく思えた。
だけど。
「違う」
俺は、男から体を離した。
「お前じゃない」
猫頭は、ふふっと小さく笑った。
「君は、誰を探しているの?」
「誰って?」
俺は、はっと気づいた。
俺は、いったい誰を探しているんだ?
思い出そうとすればするほど、その面影は遠退いていく。
俺は、もどかしさに地団駄踏んだ。
「イライラしてもダメだよ、メリッサ」
猫頭が俺に話しかけた。
「こういうときは、温かいお茶でもどうぞ」
振り向くと、そこは、見覚えのある小さな畳敷の部屋だった。
「なんで?」
俺は、ぼんやりと呟いていた。
「俺は、ここを知ってる?」
というか、ここは?
さっきまで、俺たちは、荒野にいた筈なのに?
「ああ、気にしないで」
猫頭がちゃぶ台の前の座布団を俺にすすめた。
「ここがどこかとか、君が誰かとか、そんなことは、どうでもいいことだからね」
「どうでもよくなんてないし!」
俺は、それでも猫頭のすすめた座布団の上に正座した。
「だいたい、あんたは、何なんだ?」
「僕がい?僕は」
猫頭がニヤリと笑った。
「さて、僕は、何でしょう?」