18-6 消える?
18ー6 消える?
そこは、何もない真っ黒な空間だった。
光すら感じることのできない暗闇。
俺は、生活魔法で明かりを灯そうとしたが魔法が使えなかった。
ええっ?
ここ、どうなってるの?
「アル兄?」
俺は、他のみんなの名を呼んだ。
「ラクアス?アレイアス?」
暗闇は、俺の心の中にまで浸透してきた。
それは、目に見えない植物の蔦のように俺の魂を捕らえていく。
なんだ?
この嫌な感じは?
俺は、なんとかこの闇を打ち払おうとした。
だが。
この闇の中で、俺の魔法は使えず、ラニの声も聞こえなかった。
どうなってるんだ?
俺は、闇の中でもがいていた。
しかし、この闇は、深く深く俺を捕らえていた。
どこまでも深く、俺の中へと染み込んでくる。
俺は、全身を闇に捕らえられて身じろぎもできずに呻いた。
ミセロ
俺の頭の中に声がきこえた。
オマエ ノ スベテヲ
その声はとても不快で、俺は、聞きたくなかった。
けれども耳を塞ぐこともできなかったし、例え、耳を塞いだところでそれを防ぐことはできなかっただろう。
それは、俺の中に入り込み俺を蹂躙した。
俺の魂は、粉々に砕かれていく。
体ではなく、魂を砕かれる痛みに、俺は、悲鳴をあげた。
だけど、誰にも俺の声は届かない。
俺は、知っていた。
俺は、1人だ。
この無限の空間の中で、俺は、ただ1人なのだ。
全てが、消えていく。
奪われていく。
俺の記憶や、暖かな思い出が。
友だち、仲間たち、アル兄、母様、父様、ばあちゃん。
全てが奪われていく。
俺は、1人で事故で死んでいったあの夜へと連れ戻されていた。
ああ。
俺は、自分の体を抱いて震えていた。
体が。
冷たくなっていく。
これは、死だ。
俺は、思い出していた。
こうして俺は、死んでいったのだ。
後悔も、無念さも、侘しさも、苦しみも・・
全ての感情が、俺の中で破裂した。
そして。
俺は、消滅した。
無。
俺は、永遠に続く無の中にいた。
現在と過去を隔てる時の川の中で、俺は、溺れていた。
苦しみは、もう、なかった。
ただ、なんともいえない寂寥感があった。
俺は、水に洗われ、消えていこうとしている。
「メリッサ!」
誰かの呼ぶ声が聞こえた。
俺は、ふと思った。
誰?
その名は?
俺は?
誰なんだ?