17-12 思い出の中で
17ー12 思い出の中で
俺は、クロイツに訊ねた。
「それはそうと、なんでアル兄だけ助かったの?」
「それは」
クロイツが長い睫毛をバサバサさせて上目使いにアル兄を見つめた。
「あたしが特別にこちらの紳士には、魔法をかけておいたのよ。だから、やつらの目から見ればこの方は、女に見えているのよ」
なるほどな。
俺は、納得したけどもなんか、それはそれで背筋がゾワゾワする話だった。
「なんで、アル兄だけ?」
「もちろん、あたしが気に入ったからよ。こちらの方に、わたし、一目惚れしちゃったのよ」
クロイツは、ポッと頬を染めてうつ向いた。
「この方のあたしを見つめていたその冷たい瞳が忘れられないのよ」
俺は、ぞっとしつつもアル兄の方をうかがった。
アル兄は。
にっこりと微笑んでいたが、その目は、決して笑ってはいなかった。
なにわともあれ、俺たちは、明日に向けて体を休めることにした。
何故か、クロイツは、俺とアル兄を同室に案内していた。
部屋は、他にもいっぱいあるようなのに?
俺がクロイツの方を見つめると、奴は、ぐっとガッツポーズをとった。
ガンバ!
そう口を動かすと、クロイツは、俺に微笑んだ。
何を?
俺は、目でクロイツに聞いたが、答えはなかった。
クロイツは、俺たちにウインクして去っていった。
気まずい空気が流れる。
俺は、溜め息をついて、ベッドへと横になった。
だが。
なんか落ち着かない。
レースのカーテンに囲まれた天涯付きの乙女なベッドの上で、俺は、みじろいでいた。
「眠れないのか?メリッサ」
アル兄が俺の隣に腰を下ろして俺を見つめていた。
「うん」
俺が頷くと、アル兄は、静かに歌を口ずさみ始めた。
それは、俺が子供の頃よく母様が歌ってくれた懐かしい子守唄だった。
アル兄の心地よい歌声に包まれて、いつの間にか、俺は、眠ってしまっていた。
アル兄の優しい歌声は、俺を幼い頃の思い出へと導き、俺は、久しぶりに子供の頃の夢を見ていた。
コンラッド領で過ごした懐かしいあの思い出の中で、俺は、優しさに包まれていた。