17-6 俺の大切な聖獣だから
17ー6 俺の大切な聖獣だから
俺は、ゆっくりと石碑の言葉を読み上げていった。
「『いずれここを訪れるであろう異界の者たちよ。お前たちは、この奇妙な法により守られた世界を滅ぼすことになろう。だが、悲観することはない。世界は、何度でも滅び、生まれ変わるものだから』」
なんだ、これ?
俺は、無言で考えていた。
異世界から来た者たちって、俺やクロのことじゃね?
だとしたら、俺たち、世界を滅ぼすの?
「これは、古代エルフ族の賢者であったアトラスの言葉だ」
「アトラス?」
俺は、俺に賢者の石を与えてくれた人のことを思い出していた。
俺の中のラニがもぞりと蠢いた。
『集中して、メリッサ』
ラニの言葉が聞こえる。
俺は、ラニの言葉に意識を集中させた。
「ふむ。お前、なかなか面白いものを飼っているな」
ライナスが俺を見つめた。
「それは、なんだ?」
はい?
俺は、ライナスに石碑の前で壁ドンされた。
「お前、何を隠している?」
「はいぃっ?」
俺は、ライナスさんに睨まれてふぃっと目をそらせた。
言えそうにない。
俺がアトラスさんの死に際に立ち会い、賢者の石を譲られたとは言えなかった。
「ふん」
ライナスが口許を緩めた。
「まあ、いい。いづれは話してもらうが、今は、まだいい」
ライナスは、ふぅっと静かに吐息を吐いた。
「だが、近い内には聞かせてもらうぞ」
ライナスは、俺たちを次の扉まで案内してくれた。
「1つだけ、アドバイスをしてやろう」
ライナスは、俺たちに言った。
「次の第7層の責任者は、手強いぞ。奴は、人の心を読み取る能力を持っている。そして、訪れた者をいいように操り、そして、ハーレムを作ることを目標にしているような腐った奴だ。気をつけろ。特に、お前」
ライナスは、クロを指差した。
クロが、ぎょっとした。
「俺?」
「そうだ。奴は、生意気な猫が大好きなんだよ。いわゆる変態だし。まあ、いざとなればお前を差し出して他の連中は逃げた方がいい」
「それは、できない」
俺は、きっぱりと答えた。
「クロは・・クロは、俺の大切な聖獣だからな」




