16-9 勇者じゃありません。
16ー９ 勇者じゃありません。
「まあ、いいじゃないか、メリッサ」
アル兄が俺をなだめた。
「お前なら、これからもっとすごいダンジョンをいくつでも攻略できるさ」
「そうかもしれないけど」
俺が納得できないでいると、アル兄が優しく微笑んで俺の頭を撫でてくれた。
「そんなことより、夕食にしよう。お腹すいただろ？」
俺は、上目使いにアル兄を見上げた。
アル兄は、俺の肩をポンと叩いた。
「一刻もはやくイヌを解放してやらないといけないしな」
確かに。
俺は、溜め息をついて頷いた。
俺たちが食堂にいくと、すでに食堂は、満員で酒を飲んでいる冒険者擬きたちで賑わっていた。
俺たちは、隅っこの方の空いていた席に陣取って夕食を食べた。
今日のメニューは、肉の破片が浮いたスープと固い黒パンと、焼いた肉だった。
冒険者というのは、食事にこだわらないのかな？
俺は、固い肉をモグモグしながら思っていた。
そのとき、見知らぬ女が俺たちに近づいてきた。
「あなたたちは、勇者御一行ですか？」
その赤毛の冒険者風の服装をした美女は、俺たちに訊ねた。
勇者？
俺たちは、みんな頭を振った。
だが、女は、かまわずその場にひざまづいた。
「お願いがあるのです。どうか、お聞きください」
はい？
俺たちは、口をモゴモゴさせながらキョトンとしてその女のことを見つめていた。
「えっと・・」
アル兄がエールをごくっと飲んでから口を開いた。
「それは、クエスト依頼ということ？」
「そう思っていただいてもかまいません」
女は、すがりつくように俺たちを見つめていた。
アル兄は、低く呻くと、答えた。
「あなたは、何か、勘違いをしているようだ。僕たちは、勇者一行ではない」
「では、なぜ、あなた方は、勇者の剣 トレイトスをお持ちなのですか？」
女の言葉に一瞬、食堂内が静まり返った。
みんなが、こっちを見ていた。
アル兄がきっ、とクロを睨み付けた。
「なんで、夕食にまでそんなものを持ってきてるんだ？」
「いや、だって」
クロが珍しく狼狽えて剣をかばうように抱き締めた。
「これは、俺のだぞ！もう誰にも渡さねぇぞ！」
あれ？
俺は、ちょっと意外だった。
昔から俺以外には執着心を持たなかったクロが、こんなにもこの剣に執着している。
俺は、少しムカついていた。
何？
クロの癖に生意気な！
