3-2 襲撃者
3ー2 襲撃者
遠くに巨大な壁が見えてきた。
「あれが、王都グラナダを守る壁だ。もう少しで到着だぞ、クロ」
「それは、よかった」
クロが珍しく弱々しく言った。
クロは、馬車酔いで青ざめた表情をしてぐったりと俺にもたれ掛かっていた。
何、こいつ?
俺は、さすがに弱っているものを押し離すようなことはしなかったが、少し、顔をしかめていた。
猫ってこういうの強いんじゃなかったっけ?
たしか、奴等は、三半規管がめっちゃ強かったはず。
それとも、聖獣は、違うのか?
その時、急に馬車がガクンと大きく揺れて、停まった。
外が、なんだか騒がしい。
父様が立ち上がって、御者との連絡用の窓を開け、きいた。
「どうした?クルス」
父様に聞かれて、クルスは、小声で囁いた。
「お気をつけください、親方様。何者かの襲撃を受けております」
クルスが、不意に悲鳴をあげて倒れ込んだ。
「おい!クルス!」
クルスは、返事をしなかった。
すぐに、外から馬車の扉が開かれ、黒い覆面の男が入ってくると、俺の手を掴んで俺を外へと連れ出そうとした。
「やめろ!離せ!」
俺は叫んで腕を振り払おうとしたが、だめだった。男に連れ出されそうになった俺を見て、父様が叫んだ。
「やめろ!娘に触れるな!」
父様は、問答無用で思いっきりその男の顔面に拳を叩き込んだ。
「ぐぇっ!」
男は、蛙が潰れたような声を出して外へと吹き飛ぶ。
さすが、父様!
俺は、男に掴まれたところを擦りながら、父様の方を見た。
かつて、国軍の将校をしていて、その武功で貴族に成り上がった男だけのことはあるぜ!
「お前たちは、ここにいろ」
父様は、そう言うと馬車から降りて外へと出ていった。俺は、父様の後を追った。
「父様、俺も!」
「メリッサ、これは、訓練じゃないんだぞ!」
「だから、だよ!」
俺は、馬車から飛び降りると、父様の背後から襲いかかろうとしている男に向かって、光の矢を放った。
「な、何?」
矢は、全弾命中し男は、全身ボロボロになってよろめいた。
「無詠唱だと!?」
「余所見をするな!」
父様が男の顎に強烈なアッパーを食らわせる。男は、吹っ飛ぶと地面に倒れたまま動かなくなった。
「ちっ!」
残された賊のリーダーらしき男が叫んだ。
「退くぞ!」
「逃がすか!」
俺は、逃げていく男たちに追撃の矢を放とうとしたが、父様に止められた。
「やめておけ、メリッサ!」
父様は、倒れている男の側によるとそいつの覆面をとって、小さく声をあげた。
「これは・・」
男は、特徴的な長い耳をしたこの大陸にはいない筈のエルフだった。
「どういうことだ?」
父様は、男の両手両足を縛るとペチペチと男の頬を叩いた。男は、はっと気づくとすぐに歯を噛み締めた。
「んぐっ・・」
口許からつぅっと血が流れ落ち、男は、絶命した。
「毒、か・・」
父様は、呻いた。
「いったいどういうことだ?エルフがなぜ、俺たちを襲撃する?」
父様がちらっと俺を見た。
俺は、自分の耳を押さえた。
父様が、頭を振った。
「まさか、な・・」