3-1 出発の日
3ー1 出発の日
季節の移ろい行くのは早い。
秋が過ぎ、いつしか冬がきて、俺たちが都へと旅立つ日が近づいてきた。
俺は、母様の命でしばらく、ドレスの採寸やら、ダンスの練習やらで忙しかった。
「いいよな、アル兄は」
ダンスの練習のせいで痛む足を椅子に投げ出して俺は、アル兄にぼやいた。
アル兄は、にんまりと笑った。
「そうだろう。これから、もっと大変になるぞ。なにしろ、お前は、あのシュナイツ閣下の婚約者なんだから」
「うへぇっ!」
俺は、もうすでにうんざりとしていた。
こんなこと、もう、耐えられない。
俺が、そろそろ逃走を図ろうかと思い出した頃に父様にそろそろ王都へ出発すると告げられた。
俺は、もう行儀作法や、ダンスの練習をしなくていいと思って、内心、ホッとしていた。
冬の始まる頃、 父様、母様とアル兄と俺、それにクロは、馬車に乗り込み、リリアとヒンデルさん夫妻に見送られて都へと出発した。
都への旅は、約一週間ぐらいだ。
前にも、父様について都に行ったことのあるアル兄はともかくとして、俺は、村から出るのは、初めてだったので見るもの聞くもの全てが珍しかった。
「あれは、何?」
都の近くにある街 サザンスクでは、俺は、街道を走っていく馬車から思わず、身を乗り出した。
海のないイーゼル王国の港とも言われている街 サザンスクの上空には、巨大な宙に浮かぶ木製の船が 行き来していた。
「あれは、空船だよ、メル」
父様が教えてくれた。
「都と辺境の地を結ぶ船だ」
「すごい!空を飛ぶ船なんて」
俺は、空に浮かんだ船を見ながらアル兄に訊ねた。
「あれは、どういいう仕組みになってるの?」
「空船は」
アル兄は、俺に説明してくれた。
「巨大な魔核が積み込まれていて、それに空を飛ぶ魔法の回路が刻み込まれているんだ。操者がそれに魔力を流すことで船が飛ぶんだ」
「マジか!」
俺は、その空を飛ぶ船の行き来する風景に心を奪われた。
いつか、俺も、あの船に乗ってこの異世界中を旅したい。
俺は、そう思っていた。