15-3 魔渇病ですか?
15ー3 魔渇病ですか?
俺たちは、港に到着するとすぐに『アルとメル商会』の空船へと乗り込んだ。
船長の老センラは、小柄なもと空賊の老人だった。
「おう、この子が会長さんの思い人かい?」
老センラは、にやっと俺に笑いかけた。
「確かに美人だな。わしももう少し若けりゃ、な」
そう言うと老センラは、豪快に笑った。
船の乗組員たちは、さすがにアル兄の船だけあってみな、いい人たちだった。
特に、副船長の黒狼族のライは、俺たちに親切にしてくれた。
なんでも、傭兵としてこの大陸にやってきたのだが、その真面目さを見込んだアル兄が特別に雇い入れたのだという。
武骨そうな外見とは異なり、細やかな気配りのできるいい人物だった。
みな、イヌのことを可愛がってくれた。
特に、ライは、故郷に残してきた妹のことを思い出したとかで、目を潤ませていた。
イヌが、奴隷だったという話をきくと、ライは、怒りに震えていた。
「許せねぇ、そいつら、みんな殺してやりたい」
俺たちは、安心して、快適な空の旅を過ごしていた。
だが、もう少しでガーランド公国の国境という辺りで、事件は起きた。
突然、老センラが高熱に倒れてしまった。
そして、手を尽くす間もなくあっという間に悪化して死んでしまった。
それを皮切りに、次々と乗員たちが病に倒れていった。
症状の重い軽いに差はあったが、みな、高熱を出して倒れていくことは、同じだった。
「こいつは、たぶん、魔族の病で魔力を失っていく魔渇病だな。魔力が強いものにはただの風邪みたいなものだが、魔力の弱いものにとっては、死の病だ」
船長である老センラの死によって船長代理となったライの話では、魔渇病は、病のもととなる魔吸虫の宿主を殺すまで終息することはないらしい。
ライは、俺に頭を下げた。
「すまねぇが、あんたに魔渇病の虫の宿主を探してもらいたい」
俺は、この空船の乗員のすべてを透視してその体内にいるという魔吸虫を探したのだが、これがなかなか骨の折れる仕事だった。
ラクアスや、アレイアスも手伝ってくれて、なんとか、一両日で全乗員を調べた結果、宿主は、イヌだということがわかった。
魔吸虫は、心臓に住み着いているため、これを取り除くためには、亜大陸に生える特殊な薬草が必要になる。
だが、それは、亜大陸でもめったに手に入らないため、大抵の場合、宿主は殺されることになるのだった。




