15-2 みんな、ライバル?
15ー2 みんな、ライバル?
俺たちは、サイナス辺境伯の屋敷を辞した後、1度、コンラッド領によってから空船の港を目指した。
母様に磨きあげられイヌは、ちんまりとはしているが、普通のちょっと痩せ気味の子供に見えるようになっていた。
その犬耳と尻尾さえなければ、藁みたいな色の髪と、青い目の小柄な子供と変わりはない。
「だけど、この国に獣人の奴隷がいたなんて」
俺が呟くと、母様が溜め息をついた。
「珍しいからって、そういうものを好む輩はいるのよ、メリッサ」
俺は、このイヌの小さな体に残された傷に心を痛めていた。
今まで、どんな目にあわされてきたのか。
考えるだけで、気分が悪くなる。
「イヌなんて、いつまでも呼ぶわけにもいかないし、名前を考えなきゃな」
俺が言うと、イヌは、頭を振った。
「イヌは、この名前がいい」
はい?
俺は、イヌに訊ねた。
「なんで?」
「だって、ずっとこの名前だったから」
不憫すぎる。
俺は、母様がそっと涙を拭うのを見た。
「わかった。当分、名前は、イヌでいい。でも、変えたくなったらいつでも変えていいんだからな」
イヌは、頷いた。
アル兄が手配してくれた馬車が来ると、俺たちは、港へと出発した。
俺たちは、クロとアル兄とラクアスとアレイアス、と俺とイヌの6人だった。
馬車の中で、俺は、アル兄と久しぶりにゆっくりと商会の話とかをすることができた。
「夏に開発を始めたサーフボードは、来春までには商品化できるよ」
「そうなんだ。さすが、アル兄だね!」
俺は、あれが売り出されたらすぐに手に入れるつもりだった。
「そんな他人行儀なこと。いいか?メル。あの商会は、いまだにお前と僕のものなんだからね。忘れないで」
俺は、アル兄に言われて嬉しくかった。
なんだか、いろんなことが変わっていくけど、変わらないこともあるんだと、俺は、少ししかホッとしていた。
ラクアスとアレイアスは、クロに礼を言っていた。
「お前が、妙なパフォーマンスをしてくれたおかげで王族の絡んだ事件が目立たなくなって助かった」
「マジか?」
クロが、どやっという様子で笑った。
「役に立ったなら、よかったぞ」
「でも、メリッサは、渡さないからな」
アレイアスがクロににこやかに笑いかけた。
「俺たちは、みんな、ライバルだ。正々堂々と戦おう。もう、抜け駆けはなしだぞ、クロ」
なんの話だよ!
俺は、溜め息をついていた。




