14-12 ルーラのもとへ
14ー12 ルーラのもとへ
隣室には、母様とエリンさんに囲まれて椅子に腰かけたすごく小柄な犬耳に尻尾を持つ子供が座っていた。
魔族の子供?
だが、その様子は、異様だった。
ズタ袋に穴を開けたようなみすぼらしい服装に木靴をはいたその魔族の子供は、俺を見て怯えるように耳を伏せた。
俺は、子供の足元の木靴を見た。
間違いなかった。
この子供があの時、シュナイツが魔族に毒を盛るように指示を与えていた相手だった。
「母様」
俺は母様に声をかけた。
「この子は、魔族?」
「それが・・・」
母様が言うには、この子供は、亜大陸から拐われてきた両親の間に生まれたらしいのだが両親からは生まれてすぐに引き離され、今の主のもとへ売られたのだった。
「今の主人って、誰だ?」
俺がきくと母様が困惑の表情を浮かべた。
「それが、どうやら主人の名を言うことができないようなのよ」
隷属の魔法の効力か!
俺は、その子に近づいていくと、前に膝まづいてその子供のことを覗き込んだ。
だが。
その青い瞳には、何も表情はなかった。
強いていうなら、絶望、だろうか。
俺は、そっとその子の体に視線を走らせた。
だが隷属の紋様は、どこにもなかった。
俺は、その子供の全身を透視して見た。
それは、その子のうなじの下の辺りにあった。
「これは・・」
この子を縛っている紋様には、竜の刻印があった。
つまり、この子に魔法をかけたのは、かなりの力を持った竜神族の術者だということだった。
でも。
「魔族が魔族に、隷属の魔法をかけたのか?」
俺は、少女に訊ねたが、少女は、困惑したように頭を振った。
「う・・あ・・」
苦悶の表情を浮かべて少女は、呻いた。
主人に関することは何も答えることができないのだろう。
俺は、少女にきいた。
「君の名前は?」
「名前は、ない」
少女は、困惑した様子で答えた。
俺は、なおも訊ねる。
「なら、いつもはなんて呼ばれているんだ?」
「・・イヌ・・」
「はい?」
「イヌ、と呼ばれています」
イヌ?
確かに、この子は、犬の獣人のようだったが、だからといってイヌかよ!
俺は、この子の体のあちこちに刻まれた傷跡を見て憤りを感じていた。
こんな小さな子供に酷いことを!
許せない!
俺は、隷属の魔法を解こうとした。だが、途中で止めた。
止めざるを得なかったのだ。
この隷属の魔法は強力で、もし下手に術を破ろうとするとこの子の命が失われるようになっていた。
「もしかしたら、竜神族ならなんとかなるかも」
俺は、呟いた。
母様が溜め息をついた。
「竜神族なんて、この大陸にはいないでしょう?」
「いや・・」
俺は、はっと気づいた。
そうだ!
俺の脳裏にルーラの姿がよぎった。
ルーラは、確か、竜神族だった筈。
彼女なら、この術を溶けるかもしれなかった。
俺は、急遽、ガーランド公国に戻ることにした。
ルーラに会うために。
そして、この子の術を解いてもらうために。
「すぐにガーランド公国に戻るぞ、クロ!」
俺は、クロに声をかけた。
クロは、頷いた。
「おう!」
側にいたアル兄とラクアスとアレイアスも応じた。
「我々も一緒に行こう」
そして、俺たちは、アル兄の商会の空船に乗って旅立つことになった。
目指すは、ガーランド公国。
ルーラのもとへ!




