2-8 祭の日
2ー8 祭の日
翌日は、朝からいい天気だった。
村では、村人総出でパーティーの準備によねんがなかった。
コンラッド家は、もともとは、貴族の家系ではなかった。
20年ほど前の戦役で武功をあげた父様を国王が貴族に取り立て、この領地を与えられたのだ。
最初、荒れ果てた野原だったこの地を父様たちが開拓しここまでにしたのだ。
村人たちも、領主としての父様のことを敬愛し、何事かあれば父様のために戦うことも厭わなかった。
そして、当然のことだったが、母様も
村人たちに慕われていた。
かつて、この村ができたばかりの頃から、共に苦労してきた母様のことを村人たちは、聖女のように思っていた。
だから、母様の誕生日は、この村の年に1度のお祭りの日だった。
村の広場へ村人たちがおのおの料理を持ち寄り盛大に母様の誕生日をお祝いするのだ。
ついでに秋の恵みに感謝して農業と狩りの女神 クルセナの祭壇を作り、そこに聖獣の姿となって身体中を飾り付けられたクロが侍るのだった。
クロにとっては、この日1日は、災難の日だった。
大きな黒猫の姿になり、1日、村人たちにかしずかれて、迷惑そうなクロを見るのは、俺にとっては、ちょっとした楽しみだった。
俺とアル兄は、昨日、作っておいて収納袋に入れておいたケーキを切り分け、みなに振る舞った。
みんな、初めて食べるものに興味津々だった。
「うまい!」
「ほんとに、信じられないくらい、おいしい!」
人々は、ケーキを夢中になって頬張っていた。
「まるで、口の中で蕩けてなくなってしまうみたいだ」
みな、もっともっとと手を伸ばしてきたので、ケーキは、すぐになくなってしまった。
母様も村人たちも、みな、俺たちの作ったケーキのとりこになっていた。
「本当に、アルム様とメリッサ様は、この村へ天がお与えになった2つの至宝ですな」
村長で、父様の右腕であるガドッグさんが目を煌めかせて言った。
「これから先、実に楽しみな御二方です」
俺は、夕方になって、酒を飲みながら陽気に歌い踊っている人たちの群れからそっと抜け出すと、森のあのシギの木へと上っていった。
村を見下ろす高みに登ると、コギスの家族が驚いて俺を見上げていた。
コギスというのは、リスのような、あるいは、小さな猿のような動物だった。
俺は、高みから山の向こうを見た。
大きな太陽が沈んでいって、辺りは、どこもみな真っ赤に染まっていた。