13-10 騙された?
13ー10 騙された?
サイナス辺境伯の領地へと向かう馬車の中でも、俺は、ずっと上の空だった。
アル兄にキスされた!
どうして?
俺は、頭がぐるぐるしていた。
俺たち、兄妹だし。
まあ、義理だけどな。
でも、俺は、本当の兄さんだと思ってきた。
なのに。
俺は、どうしたらいいんだ?
「どうしたの?メル」
母様が俺にきいてきた。
「なんだか、1人で、百面相してるわよ?」
「ええっ?」
俺は、笑ってごまかそうとした。
「なんでもないよ、母様」
「うそおっしゃい」
母様は、俺の手にそっと手を重ねた。
「あなたを見ていると少女の頃のことを思い出すのよ、メリッサ」
母様は、俺の手を握った。
「男の人のことも、自分が女だってことも受け入れられなかった頃の自分を思い出すの」
「母様」
俺は、訊ねた。
「でも、母様は、受け入れられたんだよね?」
「ええ、まあ、どうにか折り合いをつけられたわね」
母様は、遠くを見るような目をして微笑んだ。
「17才のときにお父様と出会って、ね」
「なんで?」
俺は、母様に訊ねた。
「なんで、母様は、それを受け入れられたの?」
「それは」
母様が口許に笑みを浮かべていた。
「あなたも、そのときがくればわかるわ、メリッサ」
「その時、って?」
俺は、なおも訊ねたが、母様は、それ以上は答えてはくれなかった。
俺たちは、サイナス辺境伯の城へと迎えられた。
そこは、城というよりは要塞という感じだった。イーゼル王国の北の守りの要であるサイナス辺境伯の城に相応しいと俺は、思っていた。
城についた俺たちを出迎えてくれたのは、サイナス辺境伯の妹であるラートリア・サイナスだった。
ラートリアさんは、サイナス辺境伯と同じ、黒髪に緑の瞳のすらりとした美人だ。
だが、まだ、未婚で兄であるサイナス辺境伯のもとで彼の代わりに家内のことに手腕を振るっていた。
「いらっしゃい、メリッサ」
ラートリアさんは、そう言ってからはっとして口許を押さえた。
「いえ、今は、ネイジア姫だったわね?」
「いえ」
俺は、ラートリアさんに答えた。
「メリッサでかまいません。ただ、コンラッド領のメリッサではありませんが」
「まあ」
ラートリアさんが訳知り顔で頷いた。
「あなたも、苦労してるのね、メリッサ」
ラートリアさんは、気分を切り替えるように微笑むと俺たちを城へと招き入れた。
「ともかく、あなたは、あの兄様の選んだ本命の婚約者候補ですものね」
はい?
俺と母様は、顔を見合わせた。
ラートリアさんは、続けた。
「実は、今、この城には、あなたを含めて5人の令嬢たちが滞在しているの。そして、これから、一週間かけて兄様の婚約者を選ぶことになっているの」
マジですか?
俺が驚いて言葉を失っていると、母様が怖い声で訊ねた。
「私たちは、サイナス辺境伯より、婚約の申し込みを受けて参ったのですが」
「そうね。ここに来ている令嬢は、みな、そうよ。 クララ」
ラートリアさんは、平然と言い放った。
そんな話、初めてききましたけど?




