13-9 突然のキス?
13ー9 突然のキス?
その日の夕方には、サイナス辺境伯からの招待状がきた。
辺境伯領において開かれることになっている舞踏会に招かれたのだ。
俺は、母様と2人でサイナス辺境伯の領地へと翌日には、旅立つことになった。
ずいぶんと急な話で父様は、驚いていたみたいだった。
「まるで、婚約が決まっていたようだな」
「きっと、お年だし、急いでおられるのかもね」
母様は、俺と2人で旅するのを楽しみにしている様子だった。
俺は、部屋で旅の準備をしていた。
荷物をまとめている俺のところへ、アル兄がやって来た。
「バカだよ、メル。お前ならもっといい相手だっているだろうに。わざわざ好き好んでなんで、サイナス辺境伯なんだ?」
「だって、あの人が1番早く俺に婚約を申し込んでくれたからさ」
俺は、兄さんの方を見て、微笑みを浮かべた。
「1番最初に何かするのは、1番勇気がいることだからな」
「でも、だからってなんで」
「ストップ!」
俺は、アル兄を制した。
「俺のポリシーは、なんでも悩んだらとにかくやってみる、だからさ。それは、兄さんも知ってるでしょ?」
「メル」
「アル兄、心配してくれてありがとうな」
俺は、兄さんに向かって笑いかけた。
けど、アル兄は、ぷいっとそっぽを向いた。
「ただ、俺は、メリッサが泣かされるとこをもう見たくないだけだ」
「俺がいつ、こんなことで泣いたっていうんだよ?」
俺は、アル兄に訊ねた。
「シュナイツの時だって、俺は、泣いたりはしなかったぞ!」
「それは、そんな暇がなかっただけだろ」
アル兄が溜め息をつくと、俺の側へと近づいてきて、俺の肩に両手を置いた。
「ただ、さ、俺は」
アル兄は、兄さんの方を見上げている俺の唇にそっと口づけした。
ええっ?
一瞬のことだった。
アル兄は、何も言わずに背を向けると部屋から出ていった。
取り残された俺は、1人、呆然としていた。
どういうことですか?
俺は、アル兄に口づけされた唇に指先で触れた。
アル兄にキスされた!
うん。
そんなことは、子供の頃から何度でもあったしな。
俺たちは、仲良し兄妹だし。
だけど。
なんで、こんなにドキドキしてるわけ?




