13-8 物はためしです。
13ー8 ものは試しです。
俺は、その日のうちにばあちゃんへ手紙を書いた。
それには、父様や母様のことは伏せて、ただ、辺境伯から交際の申し込みを受けたとだけ書いた。
そして、俺は、その手紙に魔力を込めて鳥の姿に変えて窓から空に飛ばした。
ああ。
俺は、夜空を見上げて溜め息をついた。
ここから見る夜空は、とてもきれいだ。
なんだか、しんみりとしてしまう。
俺は、もう、前世の俺じゃない。
今生の人生を生きなくては。
でないと、メリッサ自身にも申し訳がたたない。
この体は、俺の体であると共にメリッサという女の子の体でもあるんだ。
俺は、今、二人分の人生を生きているんだ。
ばあちゃんからの返事は、翌日には俺のもとに届いた。
『何事も物は試しです。がんばって、メリッサ』
それが、ばあちゃんからの返事だった。
これって、OKってことだよな?
俺は、父様と母様にそのことを伝えた。
「国のばあちゃんも付き合ってみたらっていってるし、サイナス辺境伯には、そう返事をしておいて欲しいんだ」
「メリッサ」
父様が俺を心配そうな表情を浮かべて見つめた。
「何かあったのか?」
「別に」
俺は、苦笑いした。
「ただ、さ。同級の子達は、もうとっくに婚約者が決まってるって言うし、ちょっとびっくりしたっていうか。俺も、もう子供じゃないんだしそろそろ婚約者の1人ぐらいみつけなきゃって思ったんだ」
これは、半分本当だった。
俺は、自分の、メリッサという女の子の人生をきちんと生きてないような気がしてきてたんだ。
もしかしたら、前世の記憶がなければ、メリッサは、あの子達と同じように恋話とかしてたのかもしれないんだ。
誰かのことを思って胸を焦がしてたのかもしれないじゃないか。
そう思ったら、いたたまれなくなってしまって。
俺のせいで、メリッサを不幸にしたくはなかった。
アル兄は、怒ってるみたいで口をきいてくれなかった。
こんなことは、子供の頃からないことだった。
俺たちは、いつも仲良しで喧嘩なんてめったにしなかったのに。
俺は、少し、寂しい気持ちになっていた。
いったいなんで、アル兄は、俺が婚約者を決めようとするのをよく思わないんだろう?
前にシュナイツと婚約してたときは、そうでもなかったにになぁ。
まあ、結局、婚約破棄されたんだけどな。
たぶん、そのせいで兄さんは、神経質になってるんだろう。
俺が、また、婚約破棄とかされるといけないからって、心配してくれてるのかな。




